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第1章

「少しの変化」

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 オレが、かなり余計なコトをして、啓介に何にも抵抗できなかったあの日。


 あの日を境に。
 ……別に何かがものすごく、変わった訳では、無いのだけれど。

 ただ、何となく。
 ――――……啓介は、本当にオレが好きなのかなと。

 女のかわりにしてる訳でもなくて。
 女と比べたりしてる、とか、そういうのも、ないのかなと。

 何となく、そう思うようになって。
 何となく、今迄よりも少し拘らずに、啓介を受け入れられるようになったというか。

 啓介の、良く分からない、大好きアピールの言葉を、普通に聞いてられるようになったというか。
 その程度の、変化、なのだけれど。

 なんだか、前よりも更に啓介は、優しくて。
 甘ったるい感じで、接してくる。

 気恥ずかしいし、アホなのかなとも思うけど。
 前ほど、嫌じゃない、というか。

 何だろうなー、と、不思議に思いながら、過ごしていたある日。


 水曜の授業が終わって、またしても、啓介宅に連れ帰られて。
 もういい加減、一緒に住もうや、家賃もったいないやろ、と言われて。

 ……そうかもなあ、なんて思いながら、啓介宅で、夕飯を食べ終わった。

 先にシャワーを浴びた啓介と入れ替わってバスルームに行き、シャワーを浴びて、髪を乾かしてからリビングに戻ったら。

 啓介がソファに寄りかかって、目を閉じてた。


「……啓介? 寝てる?」
「いや……起きとるよ」


 小声で声をかけると、すぐ返事をして、目を開けて、こっちを見てくる。
 でも、なんか、だるそう。

「眠い?」
「んー……なあ、雅己、悪いんやけど、今日、布団出して、リビングで寝て?」

 背もたれに寄りかかったまま、啓介がそう言った。

「へ?何で?」

 答えた瞬間、はっと、気付いた。

 なんか夕飯食べてる辺りから、少し元気ないかなと思ってはいた。そういえば、シャワーも、オレを誘う事もなく、静かにさっさと入りに行ったり。出てきた時も何もちょっかいかけず、静かにすれ違ったり。

 はっきりとおかしいと感じる程ではなかったけど。
 そもそも、口数が少ないし。少しだけ、あれ?とは思ってた。


「……もしかして、やっぱり、具合、悪いの?」
「……ばれとった?」


 聞いた雅己に、啓介が苦笑い。


「さっきから元気ねえかなって所々気になってたけど、今、はっきり思った」
「んー……。ほんまちょっとなんやけどな。 うつしたら悪いし」

「熱は?」
「んー……ちょっと熱いくらいなんかなあ。……微熱?」

 啓介に近付いて、額に触れる。


「……あ゛あ゛?! 何がちょっとだ、この馬鹿!!」
「ええっ?」
「……ええって何だよ!」

 叫んだオレに、啓介もびっくりしたみたいに声を出す。それに対して、オレもまた叫ぶ。


「…………」
「…………」

 お互いしばらく沈黙のまま。見つめ合う。

「……つーか、気付かねえの? 微熱じゃねーから」
「そんなに熱いん……?」

 そんな事言いながら、自分の額に触れて、首を傾げている。


「……鈍すぎる……そんなにあったら、普通熱あるって自分でも分かるって……」

 はああ、と大きなため息。


「お前、とっとと部屋行って、寝てろよ。 体温計と薬、持ってくから」
「んー……。そんなにあるかいなぁ……?」 


 素直に部屋に向かいながらも、啓介は首を傾げている。
 オレは、大きな大きなため息を、もう一度ついた。





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