上 下
30 / 248
第1章

「罰ゲームみたいな」

しおりを挟む

「啓介は、女と違うのって、嫌じゃないのか?」
「ちゅーか……ほんっまに、意味わからん」

 ぷに、と頬をつままれて、啓介が首を傾げる。

「女がええなら、最初から女んとこいくわ。
 ……なあ、雅己って、オレが、嫌々、お前に触ってると思うてんの?」


 そこまで嫌々とは、思ってないけど……。
 でも、あんまり見えないようにやればいいのに、とか。
 感じすぎてる姿も、見せたくないとかは、思ってるな。オレ。

 だから、いつも、嫌だし。

 とは、何となく言えないけど。
 啓介は、オレの顔を見て、何となく察したらしく、すごくすごく嫌そうな顔をした。

「……そんな訳ないやろ。どんだけお前に迫ってるんや、オレ」
「――――……」

「……オレが嫌々、男のお前に、なんで迫るん?」
「……分かんない」

 ほんと分かんない。

「分かんないー? ほんまアホなんか、雅己…… 一体、何が言いたいねん……」


 ……もうこれ以上、何を言いたいのか、自分でも良く分からない。

 黙ったオレに、同じくしばらく黙ってた啓介が、ふっとオレを見て。
 それから、にやりと笑った。

「ふーん……」
「何だよその笑い?」

「……そーゆう事か。何となく、分かったわ」
「え?」


「結局、雅己はオレの事、結構好きやって事やろ」
「……え?」

 何でそーなる??

「女と比べられたくないとか、男の体で萎えさせたくないとか、そーいう事思うてるってことやろ?」
「――――……」

「……そんなん気になる位、オレの事、好きてことなんちゃうの?」
「――――……」

「オレが嫌んなったら困るから、見られたくない、っちゅう事やないの?」
「……は……?……違うし」

 ……何言ってんの、こいつ。

 違う違う。そんな事、言ってる訳じゃない。
 ……別にそんな事、思ってない。


「――――……」


 ――――…………え。これって、そういう事なの??


「――――……っ」

 急に顔が熱くなって。
 布団に潜り込もうと思った瞬間。

「待て待て、隠れんなや」

 抑えられて、ぐい、と抱き寄せられて。
 思い切り、啓介と、真正面で、向かい合ってしまった。

「……真っ赤……」

 啓介がふ、と笑う。


「――――……っ離し……」
「離す訳ないやろ……あーもう、お前……ほんまに可愛ぇな」

 ぎゅーと、抱き締められてしまう。

 ……なんかもう。
 ……やっぱり、家に帰りたい、オレ。


「なあ、雅己」
「……っ」


「オレの体、見てみる?」


 ――――……はい?


「萎えるか、したくなるか、めっちゃ見てみるってのは、どうや?」


 こいつって――――……ほんと、何言ってんだろう……。
 ……オレがお前の体、見んの?何で?


「オレはお前見たら、手ぇ出すに決まっとるんやけど」
「……」

「逆に雅己が見てみるんはどうやろかと思う訳。お前がオレを見て、その気になるなら、もう納得しろや。男でも、好きなら一緒て」
「……オレ、そんなにお前好きって、言ったっけ……?」

 ……そんな記憶は、ない。


「まーえーからえーから。見る? ……ん?」



 見るって……
 ――――……何をどう見んの……。


 何なんだもう。楽しそうな顔して。
 


「……見ない」
「なして?」

「……見たくないから」
「失礼やな」

 ……何でこんな時でも、お前って、笑うんだろ。


「……普段、マジマジ見ること無いやん。気持ち悪いか、見てみたら?」
「……別に……気持ち悪いなんて、言ってないじゃん」

「だってお前、オレがお前をちゃんと見たら嫌になるって思てんのやろ?」
「――――……」

 そうだけど。
 それは、お前がって事で……。

 そもそも、オレの事じゃないし。

「……よし。見てみて。で、おまえがその気になったら、そのまんましよ」
「……何言ってんだお前、なんないからな、その気になんて」

「えーからえーから」
「――――……っ……今って、露出狂の気分かよ? そんなに人に見せたいの?」

 腕掴まれて、何をどうしようとしてるのか分からないまま、拒否って言った言葉に、啓介がまたまた嫌そうな顔して、でもまた、クッと笑う。

「オレ誰にでも見せたい訳やないし。雅己にだけやし。ちゅーか、見せたいてよりは、見てお前がその気になるか試したいだけやし」
「……っ」

「んー――――……どんな体勢で見たい?」
「……っ見たいって言ってないじゃんかっ」

「オレ寝ててもアホみたいやし。じゃあ、こっちな」

 全く聞いてくれない啓介は、くるん、と向きを変えて、ベッドの端に腰かける形で座った。


「ん、来いや」

 また布団ごと引かれて、啓介の前に降ろされる。
 結局オレはまだ布団の中全裸なので、包まれたままで、床にぺたん、と座る。

「………何で、こんな事になってんの……」
「ええやん。お前も、ちょっとは見てみたいやろ、ちゃんと」

「……そんな事言ってない」
「――――……えーから、見て」

「何でそんなに見せたいんだよ……オレは、見せたくないのに」
「そこが、おかしいから、修正したいんよ」

「――――……」

 はあ。とため息。

 ボクサーパンツしか身に着けてない、裸の啓介の脚の間に座らされるなんて、ついさっきまで、一度も考えもしなかった事態。


「……雅己」
「……?」

 呼ばれて、頬に触れられて、見あげると、唇が重なって。
 遠慮なく入ってくる舌に、ぞく、と震えて。

 しばらくして、唇離されると同時に、腕をとられて少し引き上げられて、啓介に近付かせられる。

「――――……ん、どーぞ?」
「……っ……どーぞ、じゃない、し」

 もうほんとに、意味わかんね。
 オレが一体何をしたっていうんだ。

 なんで、こんな、罰ゲームみたいな……。


 思うのだけれど、啓介の態度に、見ない限り、この時間は終わらないと悟る。

 ……くそ。

 ……見ればいいんだろ。
 よく考えたら、別に、見られるのオレじゃないし、恥ずかしいのは見られるお前だよな。

 そうだ、オレじゃないじゃん、恥ずかしいの。

 ……っっ すっげえ、じっくり見てやる。
 そんな見ないでって言うまで、見てやるから。



「……お。急にやる気?」
「うるさい。 つか、もう黙ってろよ」

「んー」

 気の抜けた声で返事をされて、ふー、と息をつく。


 目の前、改めてマジマジ見る啓介の体。
 いきなり下半身に行けず、上半身から、確認。



「――――……」

 ……知ってたけど、腹筋、割れてて、綺麗。
 何で、こんなカッコいいかな。……ムカつくな。


 しばらくぺたぺた腹筋に触ってると、啓介が、クスクス笑った。

「くすぐったいわ。――――……腹筋好きなんは分かったから……」
「……」

「下いったら……?」


 ニヤ、と笑う啓介は、もう、どう見たって、楽しんでるとしか、思えない。



「……パンツは……?」
「――――……おろさんと見えへんけど」

 またおかしそうに、笑う啓介。



「……つか、そもそもオレ見なくて良いって言ってんのに……」

 はー……。
 さっきまで、とことん見てやると言ってた勢いは早くも完全に無くなってて、深いため息が、漏れる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

処理中です...