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第1章

「比べられる?」

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 キスが、ゆっくり離れて。
 むぎゅ、とまた抱き締められる。

「……何でお前、今日そんな嫌がっとんの?」
「……ていうか、いつも嫌がってるけどな、オレ」

 今日だけみたいな言い方にちょっと引っかかって、そう言うと。

「……んな事言うなや」

 啓介は思い切り苦笑い。

「……せやけどいつもは、途中から力抜けてくのに。今日、ますます力入っていくんやもん。どないしたん?」

 力抜けてくとかいうのに、かなり納得いかないものを感じるけれど。
 もうそこ突っ込むともっと恥ずかしい事言われそうなので、無視。


「……明るいの、無理…」
「……明るい? ああ……まあ、明るいけど……何がそんな嫌なん? さっきシャワーも一緒に浴びたやん。いつも完全に真っ暗にはしてへんし。今更……何が嫌なん?」

「……っそりゃ、いつもも少しは見えてる、んだろうけど」
「――――……うん……?」

 ……何が嫌って。
 …………何が嫌なんだ。

 ……見られるの嫌。
 ……て、別にオレ、スタイル、普通だし。
 そういう意味で、ただ見られて恥ずかしいとかじゃないよな……。

 ……あ。分かった。


「……オレ、女じゃないじゃん」
「――――……は??」

「なんとなく見える位ならいいけど……そんなマジマジ見えたら嫌だろ?」
「――――……」

 啓介は全然答えてくれないで、オレをじーと、見つめてる。


「……比べられるの嫌だし、啓介だって見えない方が、いいじゃんか」

「――――…………はあ?……」

 オレが言い終えても、啓介はものすごい長いこと無言で。
 しばらくして。一言、呆れたような声を出した。

「……全然わからん」
「……」


 何で分かんないのかな。
 ……オレは、女と比べられたくないって言ってるんだけど。

 もともと女が好きだったんだろうし、そんなじっくり見られるのは嫌だし。
 比べられたくもないし。
 だから、見られたくもない。お前だって、見ない方が良くない??
 と、思うんだけどな。
 
「……よう見えたら、オレがお前の事嫌になる、て 事??」
「――――……」

 頷くと。
 ――――……啓介は、すごく嫌そうに、オレを見た。

「何でそーなんの……?」
「……」

「……お前を見なくても、オレと同じ男やし、どんな体か元々知っとるし」
「――――……」

「分かってて、それでもオレ、お前が好きやて言うてんのやけど……」
「……」

「……全然意味わからん」

 啓介がオレを、ベッドに座らせて、再度しっかりと布団で巻いた。

「――――……これ取って、全部見えたら、嫌いになると思うん?」
「――――……」

「……今更お前の体、明るい所で見たからって、初めて知るようなとこ無いし、嫌になるとかありえへんし……」
「――――……」


「……何が言いたいんか、ほんまよう分からん」


 うーん。さっきから。何で、分かんないんだろう。
 どういえば分かる??



「……だってお前、ずっと、女の子としてたじゃん」
「――――……」


「……そんなに見過ぎると、女の子と違うって……実感するだろ」

 啓介は、じっとオレを見て。
 それから、頭に手を置いて、ぐりぐり撫でた。


「女と違うなんて、見なくたって分かっとるんやけど。……前に女としてても、お前が好きで、 今こうなってんのやから…そんなの考える必要ないと思わん? お前やて思うと興奮すんねんから……もう、それだけやんか」
「――――……」

「確かに他の男は、全然触りたくない、ちゅうか女に対してだって、女全員に触りたいとは思わんやろ? 同じやて。結局好きな奴だけに触りたいて事やろが」
「――――……」
「でオレは、女と男全員の中で、お前にだけ、触りたいて事やし」

 なんかもう。啓介の、まっすぐすぎな言葉は。
 ぐさぐさ刺さってきて。


 オレが、啓介を受け入れ切れない理由を。
 さらりと吹き飛ばしていきそうな。



 オレ、もはや自分の言いたい事が、よく分かんなくなってきた。
 




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