【やさしいケダモノ】-大好きな親友の告白を断れなくてOKしたら、溺愛されてほんとの恋になっていくお話-

悠里

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第1章

「あれれ?」1

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 あれから1週間。 金曜日の、天気も良いうららかなお昼時。
 皆がのどかに楽しく昼食を取る中。
 オレは ただ黙々と食事を口に運んでいた。

 なんだかんだで結局、先週企んだ「用事があると断る大作戦」を決行できないまま、金曜日になってしまった。このままだと、授業終了後、「家来れる?」という啓介に、またしてもまんまと連れて行かれそうな気がしてくる。

 絶対絶対、今日こそ、自分の家に帰ろう。

 何もあいつに言わせない内に、オレから一言、「明日用事あるから今日はお前ン家行かないから」と言いさえすれば、あいつも無理強いはしない筈。

 よし。それでいこう!

 そう誓いを新たに、ふと顔を上げて時計を見ると、昼食時間に入ってから、ずいぶん時が経ってる。

 自分の周囲にも何となく普段一緒に食べている連中がほぼ集まっているのに、啓介の姿だけがない。

 ……あれ?
 なんか今日やけに遅いな。

 この決意とタイミングをずらしたら、最後な気がするのに。

「おーす、雅己」
「あ」

 隣の席に座った友達。確か今の授業、啓介と同じだったはず。

「なあ、啓介知らない?同じ授業だったよな?」
「んー? ああ、啓介なら中庭の方行ったぜ」

「ん、わかった。さんきゅ」

 食べ終わっていたトレーを手にオレが立ち上がると、そいつはオレを見上げて笑った。

「邪魔しない方がいいと思うぜ?」
「え?じゃま?」

「そ」


 ……邪魔って。 中庭で何を??

 思わず首を傾げてしまったオレに、さらにニヤニヤ笑ってこう言った。


「水野って知ってるだろ? ちょっと前、啓介と噂になってた女」

 水野水野……。
 ……啓介と噂んなった女子なんて、いっぱい居るから分かんない。

 だってあいつ、オレに好きだとか言う前、色んな女子と遊びに行ってたもん。推薦で大学が決まったあたりから、大学入って少しするまで。

 側で見ていたオレは、そんな啓介を見て、なんか、やけくそみたいだなぁ……と思ってたけど。

 最近啓介とその話したら、「雅己の事諦めようとしてた。もっと好きになれる子、見つけたかったし。……やけくそにも見えたかもしれんけど」とかなんとか、そんなような事、言ってた。


 ああ、そんな事よりも水野ミズノ……。
 あ。思い出した。 あの、目のおっきい美人の子、かな。

「思い出した?」
「ん、たぶん。……その子が何?」

「授業終わった後、水野が来てさ、啓介連れ出してったから」

「……あ、そーなんだ」


 ……ふーん。


「……分かった。邪魔しないよーに気を付ける」

「おー」


 クスクス笑う友達に背を向け、オレはトレーを片づけると中庭に向かった。


 ……別に、気になる訳じゃない。
 全然。……気になって見に行く訳じゃない。


 ただオレは、その彼女の用件が終わった所で、啓介に、開口一番さっきのセリフを言いたいだけだから。

 自分でも何だかよく分からないけど、心の中で何となく言い訳をしながら、オレは中庭まで急いだ。






 ……どこだろ?

 中庭と言っても、広い。昼時なので、芝生やベンチで座って昼を食べてる奴らも結構居る。見回しながら歩いていると、近くから啓介の笑い声が微かに聞こえた気がした。すぐに、木の陰に啓介を見つけて、思わずオレは、ぱっと隠れてしまった。


 ……あれ。何でオレ、隠れた?
 う゛ー。どうしよう。

 ここまで来てしまっておいて、どうしようも無いのだが、ここから中に入る勇気もなく、オレは背にした木に寄りかかって固まる。背後から、楽しげな笑い声が途切れて、女の子の声。

「相変わらずだね、啓介」
「そんな言うほど離れてないやろ。ガッコでいつも顔合わせとるし」
「あ、そっか」

 水野がちょっと笑う気配。それが途切れた時、啓介が言った。

「……そんで? わざわざ呼び出した用は何や?」
「ん。あのね、啓介」
「ん?」

 少しだけ、水野の声のトーンが変わった。

 ……それに対して、ちょっとだけ、胸騒ぎ。そして。

「今夜、啓介の家行ってもいい?」

 今夜?……夜に?
 啓介の家に? 夜? ……何で?
 ……何で、というか……。

「ん? なんで?」

 きょとん、とした感じの、啓介の声。
 ……何でも何も、理由なんか もう決まってるだろ。

 馬鹿じゃねえの、啓介。


「……あたし、誘ってるんだけどな?」

 水野の声。案の定の、そのものずばりの、言葉。
 何だか、嫌な感じで、ドキドキする。

 啓介が、何て、答えるのか。

 ……誘いに乗ったりなんかしたら、その時点で、もう今迄みたいなオレに対する態度なんか、絶対許さないからな。

 もう二度と、好きだなんて言葉すら、言わせないからな。

 ……あ、よく考えればオレにとったらその方が都合いいんじゃねえか?

 ――――……うーん。

 都合が良いとは思うのだが、どうも気持ちはそれを望んでいない、ような気がする。意味が分からないが、どうにも嫌な感情。

 うぅ。よくわかんねえ。 
 とにかく。……誘いになんか乗りやがったら、絶対許さねえからな。

 ドクドクドク。
 心臓が、変に、うるさい。






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