「短冊に秘めた願い事」

悠里

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第四話

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 ずっと、オレのことが好きだったってこととか。
 昨日の告白、ヤキモチ妬いてくれないかなーと思ってたこととか。
 短冊見た時、ダッシュでオレのところに来たかったけど、ちょっと落ち着いて、告白も断ってからにしよう、と思ったってこととか。

 魁星が、色々、話してくれた。

 男同士だけど。
 ――――……結婚しような、朔。

 そんな風に笑う魁星。

 まだ早いよね……? そう言うと。
 だって、どうせこのままずっと一緒に居るから、いずれはそうなるだろ?

 なんか。
 ずっと思ってるけど。

 オレは、魁星には勝てない。
 今日も、そう思ってしまう。

 たくさん話していたら、もう二十時半。
 そろそろ帰る、と、魁星が言った。名残惜しかったけど、また朝会えるしと、玄関まで送ろうと魁星の後をついて一階に降りる。


「お邪魔しましたー」

 魁星が、母さんと沙也に笑顔で言ってるから。
 オレはすぐ玄関に行くと思って、視線をそっちに向けたら。

 後ろから、魁星の、声。

 
「おばさん、沙也ちゃん。オレ、朔、貰うから」

 なんて、魁星が急に言って。
 二人は、どんな意味で取ったんだろう、いや、沙也はわかんないだろうけど、母さんは?

 瞬間的に、真っ赤になった後に、焦ってるオレを見て、母さんと、何と、横に居た沙也も。

「よろしく、魁星」
「よろしく、かいちゃん」

 と、言った。

「――――……は?……」

 何、その静かな回答?って思ったら。

「……朔の短冊、沙也が見てたんだよね。昨日帰ってから聞いたの」

 と、母から信じられない言葉が。

「えっ、沙也、字、読めるの?」
「沙也、書けないけど、読めるのもあるんだよー。昨日の朔ちゃんのは全部読めたよ」


「――――……」


 ちーん。
 オレは、しゃがみこんだ。

 やっぱり、夢であってほしい。


「後でお父さんにも言っとくから」

 いつも豪快な母は、こんな時も豪快で。
 ひらがなを読めて、あれを読んでいたくせにオレには言わず、母に言う沙也にも、ちょっと思う所もあり。

 なんとか、立ち上がって、魁星の隣から、二人を見る。

「……っていうか、息子の一大事に、なんかもっと言うこと、ないの? 焦るとか、反対するとか、無いの?」

「反対したって、魁星が聞くわけないじゃん」
「朔ちゃんだって、かいちゃんが好きじゃん」

 母さんと沙也が何を今さらという感じで、呆れたようにオレを見る。


「……ていうか、昨日沙也に聞いた時だって、まあ知ってるけどね、って感じよねえ? 沙也」
「そうだよねえ、ママ」

 二人は、ふふー、と笑い合ってる。

 二人の言葉に唖然。
 オレ達のそんなやりとりを見てる魁星が、ぷ、と吹き出した。

「魁星も、何で笑ってんの……」
「だって面白いから」

 言いながらオレを見て、クックッと笑いながら。

「あ、そーだ。ちなみに、オレ、こっち来る時、母さんに言ってきたから」
「……何を?」

「オレを朔にあげて、朔をもらってくるって」
「~~???!」

「あらそうなの。あやはなんて?」

 豪快なうちの母さんと気が合う、魁星の豪快な母さんは、綾さん。

「返品されないように気を付けな、て言ってましたけど」
「綾らしいね。あとで電話しとこー」


「……っぜ……絶対、変、だと、思うんだけど、皆」


 オレが、耐えきれずについついそう言うと。


「短冊にそんなこと書いてる朔が一番恥ずかしいからね?」

 母に突っ込まれ、言葉もない。



「諦めな、朔」


 魁星がクスクス笑って、オレを見つめる。


 ――――……ていうか。諦めるも何も。
 魁星が大好きすぎるオレは。この状況が、信じられない程、嬉しいのは、まぎれもない事実で。でも、どうにも、やっぱり夢みたいな、おかしな空間。

 漫才みたいなやりとりを、呆然と眺めていたら。
 魁星が、オレを見て、笑った。

「もう遠慮しないから」
「――――……」

 戸惑いつつも、ん、と頷くと。
 沙也が横で、おめでとーと拍手をしている。
 
 あ、沙也だけには口止めしないと、と思ったら。
 おませな沙也に、「知ってるよう、男の子同士は色々特別だって。沙也は、分かってるもん。朔ちゃんが良いっていうまで、だれにも言わないよう」と、言われた。

 めちゃくちゃ驚いてるオレに、魁星と、母さんは笑ってるし。


 



 高二の七夕の日。

 初恋が叶って。
 初キスをして。
 初恋人ができて。
 いきなり家族公認になった。



 一生忘れない、記念日になったなあ……。
 なんて思いながら。
 

 昨日書いた短冊に、心からのありがとうを捧げた。











◆ ◆ ◆ ◆ ◆

(2022/7/7)


最初はロマンティックな話にするはずだったんですが……。
あれっ?(*´ω`)(笑)
楽しんで頂けたら嬉しいです(*'ω'*)♡
by悠里
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