2 / 17
第二話
しおりを挟む「……朔」
抱き締めてくれる腕が――――……嬉しくてしょうがない。
正直、全然、意味が分からないけど。
「――――……オレをあげるから、朔のこともオレにちょーだい?」
囁かれて、もう、意味も聞かず、頷いてしまう。
「……あげ、る」
「ん、ありがと」
一日だけでもいい。
……もしかして、七夕の魔法かな。
今日だけでも。こんな幸せな夢。
……ん? あ、夢かな? これ。
オレ、いつの間にか、眠っちゃったとか?
「……夢でもいいや」
ぽそ、と呟いたまま、魁星の腕の中に居ると。
魁星は、ぷっと笑って、何かごそごそしてる。
「夢じゃないし。……見ろよ」
「……?」
スマホ?
こんな時にスマホで何を……。
思いながら、魁星が出したスマホの画面に視線を向けると。
「えっ」
オレは、がばっ、と魁星の腕の中から、起き上がった。
「見覚えあるよな?」
「……っっ」
魁星のスマホに映ってるのは、一枚の写真。
――――……一枚の。短冊の、写真。
確かに、見覚えがある。
だって、オレが、昨日書いたんだから。
昨日、魁星が告白されたのを聞いて、家で落ち込みまくっている時。
料理中の母さんに、買い物を頼まれた。カレーなのに福神漬けが無いと騒いでた。カレーには福神漬けが必須、と、謎の絶対的ポリシーを持ってるのは知ってる。断っても無駄なので、気分転換もできるし近所の店に行く事にした。
そしたら、幼稚園の妹の沙也が一緒に行きたいと言うので連れていくことになった。年の離れた妹はとっても可愛い。手を繋いでスーパーに行ったら、入り口に大きな笹が飾られていた。そのすぐ下に机があって、短冊と、色ペンが置いてある。
ああ。明日、七夕かと思った。
見た瞬間、絶対そうなると思ったけど、沙也はやっぱり、「沙也も書く!」と言った。ひらがなはまだ書けないので、絵を描くことにしたらしい。これはちょっと時間がかかりそうだなぁと見守っていたら、見ないでと言われた。
朔ちゃんも書いてよ、と言われる。断れない感じの、沙也の瞳。
分かったよ、と言って、一枚手に取って、青のペンを持った。
短冊に願い事を書くなんて、いつぶりだろう。願い事を、考えてみる。
――――……努力して叶う願い事を書くのは、違う気がする。
……てことは、やっぱり魁星のことかなあ……。
小学一年からの腐れ縁で、もう十一年目。中学の途中で、オレが完全に片思いを自覚してからは、五年位かなぁ……。
学校で一番可愛いって言われてる女の子に告白されてた魁星。きっと付き合うんだろうなって、周り中が言ってた。そうだよね。ほんと可愛い子だと思うし。お似合いだと思うし。……断る理由なんか、無いだろうし。
「――――……」
自分でどんなに頑張っても叶わない願いは、もう、それしかない、と、思ってしまったオレは。
「かいせいがほしい」
思わず、そう書いてしまった。
「魁星」の漢字は他に居なそうだから、バレないようになんとなく、悪あがきで、ひらがなで。
……何書いてんだ、オレ。
書き終えて、読んだ瞬間、恥ずかしくなって、すぐさま短冊を小さく折りたたんでポケットに入れようとした。
そのまま持って帰ろうとしたのだけど、背の高さ的にちょうど沙也の目の前が、オレのポケットだったせいで、即座に見咎められた。
「朔ちゃん、ダメだよ!」
「え」
「飾らなきゃダメ!」
「んー、いいんだよ。これは。書き間違えちゃったから」
「でも飾ってね、沙也と一緒にね」
「――――……ん、分かったよ」
まあ……「かいせい」なんて、ここ付近に、何人も居るだろうし。見た人は、欲しいってなんだろって思うかもしれないけど、オレの名前は書かないし。まあ、別にいっか……。
仕方なく、沙也のを目立つところに飾ってオレのは、笹の葉が重なってるところに隠して飾った。
敢えて探らなければ、誰にも見えないだろうし。こういうのって、七夕が終わったら、燃やすのかな? まあ、見られても、特定はされないだろうし、別にいいや。
飾ってすぐ店に入り、福神漬けを買って帰って、そのことはすっかり忘れてしまっていた。
その短冊が。
何で、魁星のスマホに収まっているだろうか。
……やっぱり夢かな? ……でもこんな変な夢、ある……?
「……何で……これ……?」
「昨日オレも、買い物に行ってたんだよ。成哉と」
成哉は、魁星の弟。
オレは、うん、と頷いて、その後の言葉を待った。
「朔がぶらさげてるとこ、成哉とレジから見ててさ。店に入った時に、成哉も書きたがってたんだけど、混む時間だったから、先に買い物してから、帰りに書こうぜってことにしてたの。で、レジの後、すぐ短冊のとこ行って……お前がぶらさげてた辺り、ちょっと覗いたんだよ。何書いたのか興味あって。いっぱいあるから、分かんねえかもって思ったけど――――……」
「――――……っ」
「わりとすぐそれが目に入って――――……」
飾ったとこから、見られてたのか。
かあっと顔が熱くなって、俯くと、魁星がクスクス笑った。
「……証拠として持ってこようかと思ったけど」
「……」
「あれを外して、願いが叶わなかったら困るから、写真撮ってきた」
「――――……」
願いが、叶わなかったら、困る?
目の前で楽しそうな魁星をただ見上げていると。
また頬に触れられて、優しく見つめられる。
あ、オレ。
もう、これだけで、かなりかなり、満足かもしれない。
17
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-
悠里
BL
コミュ力高めな司×人と話すのが苦手な湊。
「たまに会う」から「気になる」
「気になる」から「好き?」から……。
成長しながら、ゆっくりすすむ、恋心。
楽しんで頂けますように♡
【好きと言えるまで】 -LIKEとLOVEの違い、分かる?-
悠里
BL
「LIKEとLOVEの違い、分かる?」
「オレがお前のこと、好きなのは、LOVEの方だよ」
告白されて。答えが出るまで何年でも待つと言われて。
4か月ずーっと、ふわふわ考え中…。
その快斗が、夏休みにすこしだけ帰ってくる。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる