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◇ライブ準備

「サインボール」*優月

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 途中、休憩をはさみながら、時間が過ぎて行く。
 あっという間、コンサートって。すごい。

 全部が終わって、一旦出演者が全員引いて、暗転。
 それから、少しして、ステージに全員が戻ってきた。アンコール、なのかな。

 コンサートが始まるまで、全然知らなかったのに、なんだか戻ってきてくれて嬉しい気分。急にファンになっちゃったみたいな。特に玲央の先輩たち。余計に目に入るから、すごくカッコよく見えるし。

 その内、音楽に合わせて、出演者の人たちが歌いながら、客席に向かって、ボールを投げ始めた。

「なあに、あれ」
 聞くと、玲央が「ボールにサインやメッセージが書いてあって、投げてくれるんだけど。ファンサービス、だな」と教えてくれる。

「オレらもやったことあるよね」
 勇紀が言って、玲央が頷いてる。

「そのボールって、貰えるの?」
「受け取ったらな。あれだよ、野球のホームランボールみたいな」
「そうなんだー」

 クスクス笑いながら、玲央がオレを見つめてくる。

 わー、なんかいいな。ちょっと欲しい。

 でも、ステージの人達は、ボールをなるべく遠くの方に届くように、ぽーん、と大きく投げてる。
 近すぎちゃって、逆に投げられないのかも。と思いながら、じー、と見つめていると。玲央の先輩たちが、玲央たちの方を見て、何か言ってる感じがする。

 何か言いながら、笑って、その場でボールに何か書きこんでいる。

「あれ、もしかして……」
「ん?」

 玲央は先輩達のこと、見てなかったみたいで。

「なんか玲央達のこと見ながら、何か書いてたよ?」
「そう?」
「うん」

 首を傾げながら、玲央も先輩達に顔を向けてる。

「投げてくれるかな?」

 わー、オレがわくわくしてきちゃった。
 でもコントロール、大事。

 先輩、頑張って!!
 もうすっかり投げてくれることは確信しつつ、じっとステージを見つめていると。なんか、ステージの上でこっちに投げようとしてた人が、止まった。

 あれ?? 
 投げないの?

 と思っていると、先輩たちの中で、クスクス笑って、一人の人が、オレが投げる、みたいな動作をしてる。

 投げるの上手なのかな? そう思って、めちゃくちゃわくわくしながら、玲央の腕をくいくい引きながら見つめていると。その人が、腕を引いて、投げたと思った次の瞬間には。


「えっ」

 不意にまっすぐ飛んできたボールにびっくりして手を出したら。
 すぽ、と、オレの手の中に入ってきた。

「――え」

 手の中にあるボールに、ただ、びっくり。

 オレが、もらっちゃたけど。なんだか笑ってる玲央と見つめ合う。

 あれれ。ミスったのかな?? と思って、ステージ上を見ると。

 グーサインを出して、笑い合ってる玲央の先輩たち。

 ――んん? オレでいいの??
 首を傾げていると、投げてくれた人が、オレに向けて指差した後、玲央達の方を指差してくる。

 あ、ボール、渡してってことかな。

「あ、はい」

 なんかすごく笑いながらこっちを見てた玲央たちに、はい、とボールを渡す。玲央が、くる、と回して、メッセージを読んで、ふ、と微笑む。

「またステージでな、だって」

 それを玲央に言うと、皆が、ふは、と笑って、先輩達に手を振ってる。向こうも手を振り返してくれてて。


 おお、なんか、すごくいい、なんて、一人こっちで感動していると。

「ほら。あげる」
 玲央がオレにボールを返してくる。

「え? 何で?」
「――優月がめちゃくちゃキラキラした顔で見てるから、お前に向けて投げたんだろ」
「え。そうなの?」
「どう見ても、そんな感じだったよな?」

 玲央が笑いながら、皆に言うと、皆もおかしそうに笑って頷いてる。


「どうせいっこで分けられないし。優月が持ってていいよ」
「えー……いいの?」

 いいよ、と笑う皆。
 ふとステージを見ると、ボールを持ったオレを見て、投げてくれた人が、親指を立てて、ニッと笑った。「ありがとうございます」とぺこ、と頭を下げると、先輩たちは笑って、玲央たちにも手を振ると、また別の方に移動していく。


「わー……なんか」
「ん?」

「……なんか嬉しい」

 言ったら、玲央がオレの頭を撫でて、「あんなキラキラしてたら、絶対オレでも渡してる」なんて言って楽しそうに、玲央が笑った。



 ――ふふ。大事にしよ。






 





◇ ◇ ◇ ◇

(2024/11/3)

αのBL大賞。初日5位スタート。2日目6位。
応援下さる皆さん、ほんとうにありがとうございます( ノД`)
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