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◇希生さんちへ

「いっぱい」*優月

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「オレは、応援隊でいいんだけどな?」

 むしろ玲央がやるとこ、見たかっただけのような。
 玲央と蒼くんの戦いなんて、なんかすごそうだし。
 オレは入ってはいけないやつでは……?

 考えてるオレに、「ちゃんと教えてやるから」と玲央が笑う。
 ん? 玲央に教えてもらえる……?

「あ、うん。じゃあ、お願いします」
 現金だけど、なんだかすぐ嬉しくなってそう言うと、ぷ、と玲央が笑って頷いた。

「お前……ちょろいな」
 蒼くんが呆れたように笑っているけど、オレは嬉しいから、ニコニコで、うん、と頷く。と、まあさらに笑われるのだけど。

「じゃあ、あとで楽しんでおいでね。まあ、キューの握り方さえ覚えればどうにか打てるから」
 と、希生さんが笑いながら言う。

「ところで、優月くん、ブラックは飲める?」
「普段はあんまり飲まないですけど」

 答えながら対面カウンターに近づいて、希生さんの正面に立つ。

「いつもカフェオレ飲んでるよ。たっぷりミルクの」
 隣に玲央が立って、そう言ってクスクス笑う。

「少しブラックで飲んでみるかい? 良い豆だから苦みも出なくて美味しいかもしれない」
「飲んでみたいです」
「ダメだったら、たっぷりミルク入れてね。とりあえず味見だけ」

 クスクス笑う希生さんに、はい、と頷く。

「ブラック、ほとんど飲まないよな? ちゃんと飲むの初?」
 玲央がそんな風に聞いてくる。

「飲んだことはあるよ。飲めない訳じゃないの。なんとなくミルク入れちゃうけど」

 そか、と玲央は笑う。「美味しいと思うよ。香り、楽しんでみる感じで飲んでみな」と言われて、ふむふむ、そう言う飲み方は初体験かも、と頷いていると。
 ふ、と笑った玲央が、オレの頭をよしよし、と撫でた。

「ん?」
 何で撫でたんだろうと思いながら玲央を見上げる。
 玲央、もう、オレを撫でるのは解禁にしたんだろうなぁと思うと、、ちょっと可笑しいけど。

「なんか、ここ来てから新しいことばっかで、いっぱいいっぱいになってない? 平気?」

 優しく微笑んでくれる玲央と言葉に。
 きゅ、と心がときめく。
 一瞬で感極まっちゃうのか、涙が滲みそうになるから、ほんと困る。

 たしかにここ、びっくりなことがいっぱいある。
 すごいなーって思いっぱなし。
 でも、なんか。そういえばずっと玲央が隣でフォローしてくれてるみたいな気がしてた。

「平気。ありがと、玲央」
「ん。コーヒー飲んだら、庭散歩しよ。ちょっと外の空気吸って歩こうぜ」


 ほんと、玲央、優しい。
 こくこくこく。いっぱい頷いてしまう。

 と、頷きながら、ふと違和感に気づく。

「どした?」
「庭、散歩……」
「ん?」

「庭って……散歩するものなんだっていう、新しい概念が生まれたところ」
「――ああ。そっか」

 ぷ、と玲央が笑いながらオレを見て、「色々咲いてるし飼ってるから楽しいよ」と追加情報。わー、そうなんだ。ん? 色々飼ってる? 鯉の他に? 何だろ、楽しみ。

 普通のお家の庭は散歩するってものじゃないもんね。

「花も、綺麗だよ。な、じーちゃん」 

 そう言った玲央に、希生さんが、ん、と頷いて微笑んだ。
 




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