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◇希生さんちへ

「玲央のピアノ」*優月

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 ほんと、変なの。オレ。
 ピアノ弾いて、泣きそうになったことなんかない。
 うまく弾けたら、嬉しくて嬉しくてすっごい幸せだったのに。

 あ、違うか。今もすごい幸せなんだけど、
 なんでか、じーんとしちゃう。玲央と居ると。
 
 ゆっくりと、玲央が弾き始めた。
 弾き始めから、思う。奏でる音が好きって。
 軽やかで、華やかで、でも力強いとこも、玲央らしい音。
 
 希生さん嬉しそう。久先生も心地よさそうに聞いてる。
 蒼くんは何枚か写真を撮ってから、ソファに腰かけた。

 難しい曲だったから、最初はオレも緊張してたけど。
 でも、弾いてる玲央を見つめてると、楽しそうで、途中からはなんとなくもう安心して、ただ見惚れる。

 玲央、少し下を向いてる感じだから、伏し目がち。カッコいいな、玲央。一枚の絵、みたい。
 
 速いテンポの部分とかは、脚の上で少し手を握ったまま、玲央を見つめる。
 二曲の演奏が終わって、最後の音が響く。

 ……すっごいなぁ、玲央。
 間違いもなく、弾き終えた。

 ピアノの音の余韻が消えると同時に、希生さんが拍手をした。

「なんだ、弾けるんだな、玲央」

 なんて、そんな感じで普通に言ってるけど、すごく嬉しそうなのはオレにも分かる。
 玲央も「なんとか弾けたけど」なんて苦笑しながら、ほとんど見なかった楽譜を閉じた。
 久先生も拍手をした後、希生さんを見てクスクス笑う。

「希生、そんなこと言って、感動してるくせに」

 敢えてそう言って、希生さんに微笑んでから、玲央を見る。

「すごく良かったよ。ね、蒼」
「ああ。玲央らしいピアノだった」

 クスクス笑いながら、蒼くんが玲央に言う。

「普段はピアノは弾いてないのか?」
「こないだ優月と連弾しましたけど。それまであんまり……あ、でも、キーボードは曲作りにも使うので、全然弾いてない訳じゃないです」
「ライブとかでも弾けばいいのに」
「あー……そう、ですね、考えてみます」

 少し頷きながらそんな風に言った玲央は立ち上がり、ふっと、固まってるオレに気づいた。

「――――……」
 ちょっと首を傾げながら、楽譜を椅子の上に置いて、玲央が歩いてくる。

「優月?」
 玲央の声に肩が震えたのが、自分でも、分かる。
 動いたら泣きそうで、なんだかどうしたらいいか分かんなくて固まっていたのだけど。
 目の前の玲央を見上げて、なんとかにっこりして見せる。

「すっごく、良かった」

 言った瞬間、ぽろ、と涙が零れ落ちて。
 何でオレは一人で泣いてるんだーとめちゃくちゃ焦った瞬間。

 ふ、と笑った玲央に、頬に触れられて、涙をぬぐわれる。

「何泣いてンの」

 言いながらも、なんだかめちゃくちゃ嬉しそうな顔で微笑んで、オレを見つめる。

 うー、もう、なんかもう。
 玲央の顔が優しすぎて、息が止まりそうだし。

 周りに希生さんたちがいるのにこんな風に触られて、と思うのに、

「ごめんね……なんか良すぎて、勝手に……」
「そっか」
 ぷ、と笑う玲央。

「弾いた甲斐、すげーあるな?」

 玲央の優しい顔に今度は本当に嬉しくなって、頷きながら微笑んで見せる。
 ふと笑い合った後、玲央が手を離したので、クスクス笑ってる希生さんと久先生に、すみません、と言うと。
 久先生に「久しぶりに泣いてるの見た」と言われる。

「昔は泣き虫だったもんね、優月」

 クスクス笑う久先生。オレが苦笑していると、いつのまにやらすぐ近くに来てた蒼くんが、ははっとおかしそうに笑いながら。

「優月、今また泣き虫に逆戻りしてるもんな」

 クスクス笑われて、そんなことないもんと言いたいけれど、でもそういえば蒼くんの前でも何回か泣いてしまってるから、特に何も言えずにいると。

「泣き顔撮っていてやった」
「え」
 楽しそうな蒼くんの言葉にびっくりして、すぐに「消しといてね?」と言うと。

「玲央に聞いてからにするか」
 なんて蒼くんは言う。そしたら、玲央も楽しそうに、「見たいです」とか言って蒼くんに近づいていってしまった。










(2024/1/5)

まだ色々落ち着いた気分ではないのですが…
どんな感じで書いていくか、近況ボードを一読いただけたらと思います…✨
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