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◇希生さんちへ
「観客がいいな」*優月
しおりを挟む「じゃあ、連弾はこの二曲、な」
「うん」
割とすんなり連弾する曲は決まった。
「じゃあオレは、何弾こうかな……楽譜見てくる」
そう言って立ち上がった玲央の、綺麗な後ろ姿を目に映して、オレは、思わず立ち上がった。
「玲央」
「ん?」
振り返って、にこ、と笑ってくれる。
「あのね、オレも、観客になりたいんだけど……」
「ん?」
不思議そうに少し首を傾げる玲央に見つめられる。
「玲央が何弾くのかとか、練習するとこも見ないで、後で皆と一緒に聴きたい」
「ああ……」
少し考えてから、玲央は、ふ、と微笑むと、戻って来て隣に腰かけた。
「じゃあ、一緒に連弾の曲だけ、練習しよう。練習が終わったら、優月は出てていいよ」
「いい?」
「いいよ、そんなの。観客になって」
ふと微笑む玲央に頷いて、ありがと、と言うと、玲央は、ぽんぽんと頭を撫でてくる。
「優月にカッコいいとこ見せたいから、ほんとマジで練習しよ」
「玲央、練習しなくても弾けそうだけど。あといつでもカッコいいよ?」
そう言ったら、玲央、可笑しそうに、ははっと笑いながら。
「すっげー難しい曲、弾いて見せたいから」
そんな風に言って、オレに視線を流す。
「……わぁ。もう、めちゃくちゃ楽しみなんですけど」
「ん。そうですか?」
「もう、ほんとに、ありがとうございます」
また勝手に零れた敬語のまま、ぺこっとお辞儀をすると、玲央もクスクス笑いながら「どういたしまして」とにっこり。ふふ、と笑って、見つめ合う。
「楽譜、最後まで見てから弾く?」
「うん」
玲央と交換こで二曲、最後まで見てから、一緒に弾く練習。
前もそうだったけど。
もうずっと昔から、一緒に練習してきたみたいに、音が調和する。
なんでこんなに、気持ちいいんだろう。
不思議。
玲央とピアノを弾いてると、なんか、玲央とオレって、すごく深いところでつながってる、みたいな気持ちになる。
反発することも邪魔することもなくて、ただ綺麗に膨らんだ音が、響くのが、心地よくて、大好きだって、思う。
二曲弾き終えて、なんだか終わるのがもったいなかったなぁと思って、ピアノから降ろした手を太腿の上で軽く握りしめて鍵盤を見つめる。
「優月」
玲央の声に振り仰ぐと、ぽん、と頭を撫でられた。
「優月となら、何曲でもいいからずっと弾いてたいって気がする」
「――――オレも。そう、思う」
もう多分、すごいニコニコしちゃったと思うオレを見て、玲央は、めちゃくちゃ優しく笑って、またくしゃくしゃと髪を撫でてくれる。
「ん、じゃあ、優月とのは大丈夫そうだから、じいちゃんたちの部屋に戻ってて。呼びに行く」
「うん、分かった」
椅子から立ち上がって、少し低い位置の玲央を珍しく、見下ろす。
「ん?」
見上げられると、きゅ、と心がときめく。
「頑張ってね」
ちゅ、と頬にキスした。ふ、と笑って、玲央が頷く。
そっと離れて、玲央と目を合わせながら、ゆっくりとドアを閉めた。
ポロン、と、弾むような音が、いくつか聴こえてきて、オレはすぐにそこを離れた。
希生さんたちの居る部屋のドアを開けると、三人がふとオレを振り返った。
「玲央は?」
「玲央が一人で弾く曲を練習中です」
「じゃあ、座って休んでたら」
希生さんに言われて、三人が居るソファに近づく。
希生さんと久先生が並んでて、蒼くんが向かい側に居たので、その隣に腰かける。
蒼くんがオレをちらっと見て、クスッと笑った。
「玲央は、何弾くって?」
「オレも、観客がいいからって、聞いてこなかった」
「はー、なるほど」
蒼くんは、ふ、と笑って、オレを見つめてくる。
「カッコいい玲央くんを、存分にギャラリーとして見たいわけだな」
一瞬、そんなんじゃないもん、と言おうとしたけど、まさにそんなん、だったため、う、と口をつぐみ、それから蒼くんと反対を向いて。
「……まあ。そう、かも……だけど」
そう言うと、後ろから、否定もしないのな、と笑いながら突っ込まれる。
「もー、蒼くん……」
むー、と膨らみながらふと振り返った時。
「あれ? 蒼くんもピアノ、弾けるよね?」
そういえばそんなこと話した記憶がよみがえった。
「習ったけど……すげー弾けるって程じゃない」
「いや、ある程度は弾けるでしょ」
久先生が笑うけど、蒼くんは両手を出してひらひらして見せる。
「もう長いこと弾いてないし、指動かねーよ」
「……蒼くんはちょっとおかしいから、弾けてしまう気がする」
オレの言葉に、ちょっとおかしいって何だよ、と蒼くんがオレを見るのを、希生さんと久先生が笑ってる。
◇ ◇ ◇ ◇
(2023/12/18)
一番最初に「恋なんかじゃない」を書いていた、エブリスタで、
ページビューが1000万PVになりました。ちょっと密かに目指してたので嬉しい(っ´ω`c)
他のサイトさんは数は分からないので、総PVとかはわからないんですが、
とにかく、たくさん読んで頂けてて嬉しいです(❁´◡`❁)*✲゚*
続けられるかぎり続けたいなと思ってます。
これからもぼちぼち、よろしくおねがいします…✨
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