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◇希生さんちへ

「うっかり」*優月

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「うーん……まあでも、カッコいいお兄ちゃんだったけど……蒼くんはちょっと、特殊だったかな?」
「何が?」

 真顔で聞かれるとちょっと怖いんだけど。

「だって、ちょっと怖そうなのに優しいし。挨拶ちゃんとしろ、とか皆に言ってたし。めんどくさって言うのに、オレの学校の運動会来てくれたり。オレ、子供だったけど、色々不思議だった。……あ、蒼くんの高校の制服もカッコよかったよね」

 ふふ、と笑いながら言うと、蒼くんは、何か言おうとして、結局何も言わない。すると、久先生がクスクス笑って、オレと蒼くんを見比べた。

「そうそう、なんかね……優月が相手だと、蒼はたまに言い返すのやめるんだよね。優月が小さい頃からそうだった。今もそうなんだね」

 可笑しそうに言われて、「そうだっけ……?」と蒼くんを見上げる。確かに今は何か言うのをやめたみたいだったけど。

「優月の前だと、めんどくさ、が減るの、面白かったな」

 クスクス笑う先生に、んー?と首を傾げる。「でも、蒼くんが言うのはオレも聞いてましたよ?」と、不思議がっていると。

「優月が居ないと、それの十倍くらい言ってたよ」
「えっそんなに?」

 蒼くんを見上げると、蒼くんは苦笑い。

「十倍は言いすぎ。んな訳ないだろ」
「あ、そうだよね」

 あは、と笑いながら、蒼くんを見上げる。

「蒼も勝てないのか? 優月くん」

 希生さんが笑うと、蒼くんは一瞬黙って、「勝ち負けじゃないし」と苦笑いを浮かべている。

 蒼も、って。も、って、何だろう。
 ……ていうか、そもそも、の話で。

「そもそもオレ、蒼くんに勝てたと思ったこと、一回もないですけど……」

 そう言うと、皆がクスクス笑うので。
 思い切り納得されたのかなと、それはそれでどうなんだろうと苦笑していると。

「優月は本気でそう思ってるんだろうけどな」
 と、玲央がオレを見つめてくる。

「……どういう意味?」
「いや。良いよ。蒼さんは、お兄さんみたいって言ってたもんな」
「んー、うん。そう」

 ふふ、と笑うと、蒼くんもそれ以上は何も言わず、玲央の写真に目を向ける。

「つかさ。……どう見ても、オレより玲央のが尖ってるだろ」
「そうですか?」

 玲央が自分の写真を見ながら、ふ、と笑う。

「そんな感じも、カッコいいよねー」

 紺のブレザーにネクタイしてるんだけど、ちょっと緩めた感じが、めちゃくちゃカッコよくて。なんか大人っぽくも見える。

 んー。なんか。
 オレの高校時代と並べたら、同じ年とは思えない、と思う。


「玲央って、高校生の頃から大人っぽいね」
「……そう?」

 ふ、と玲央が笑ったオレの後ろから。

「大人っぽくなかったぞ? ガキんちょだった。完全に」

 希生さんの、笑いを多く含んだ声が聞こえてきて、あ、と固まる。


「ていうか、優月くん、今の玲央を大人っぽいと思ってるのか?」
「え。あ、はい。すっごく……」

 そう答えると、んー、と希生さんは自分の顎に触れて、何やら悩んでいる。

「玲央、どうやって、思い込ませた?」
「ちょっと、じーちゃん、人聞き、悪すぎねー?」

 玲央がめちゃくちゃ嫌そうに言って、「優月聞かなくていいぞー?」と言うので、ふふ、と笑ってしまったら。

「何で笑うのかなー優月は」
 と苦笑で見られて。

「だってやりとり面白いから……」

 そう言うと、ふーと息をついた玲央は、くしゃくしゃとオレを撫でる。

「!」

 何で今ここで、よしよし撫でたんだろう、と思った瞬間。
 あ、やべ、という表情の玲央。

 
「んー……」

 蒼くんがそんな風に言いながら、オレの向かい側のソファに腰かけて。

「……まあなんか、あれだよな」
「……?」

「うっかり撫でるくらい、いつもそうしてンのは、分かったって感じ?」

 そんな風に言って笑いながら、蒼くんは久先生を見る。
 ぼぼ、と赤くなったオレに、久先生は、「からかうなってば」と言いつつも、何だかニコニコ笑ってるし。

 希生さんの方は真隣すぎて、今見れないのだけど。

「お前が人の頭撫でてる姿自体、あんまり見たことないかもな」

 追い打ちなのか何なのか、そんな風に言って笑う。




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