731 / 825
◇希生さんちへ
「居心地」*優月
しおりを挟む希生さんが、何だかとても豪華な感じのドアを開けてくれて、中に入ると、広い玄関。うわぁ、と高い天井を見上げる。光がよく入るようになってて、すごく明るい。
んーと……? 何足、置けるかなあ、この玄関……なんて思いながら靴を脱いで、スリッパをはいた。
少し進んだところに、蒼くんの個展で希生さんが買った、空の写真。
「あ」
思わず笑顔になってしまうと、希生さんと蒼くんがオレを見るので、オレもまた見つめ返した。
「すごい。こんな広くて綺麗なところに飾られて――――すごく素敵、ですね」
白い壁に青空の写真。
本当に、素敵だな。そう思いながら言うと、蒼くんが笑った。
「オレもさっきそう思った」
「ん……」
うんうん、と頷く。
なんかこれを見れただけでも来れて良かった、なんて思ってしまった。
あっ、あと、玲央の鯉も……。あっあと、めちゃくちゃでっかい鯉たちも……。とかなんか色々思っていると、こっちだよ、と希生さんに言われる。
「あ、はい」
返事をした時、玲央がオレの隣に並んだ。
「なんとなくここに飾られてるかなーと思ってた」
言いながら写真を見上げてる玲央を、オレも見つめる。
……微笑んでる玲央の顔が、綺麗に見えて。
すごく好き。
なんて思いながら。
「玲央」
「ん?」
「……オレ、なんかね?」
「うん」
「もう来て良かったなーって思ってる」
「……そうなのか?」
クスッと笑って、オレを見つめる。
――――……白くて明るい空間で、蒼くんの青空の写真と並んで、玲央がオレの視界に入ってて。
いつでも玲央は、素敵だけど。
なんかますます、素敵で、尊いものを見てる気分。
なんだかすごく気恥ずかしくて、どう言ったらいいか良く分からないけど。
多分、今オレを見てくれているこの視線は、オレが好きって思ってるのも、なんとなく分かってくれてるような気がして、ふ、と笑って見つめ合う。
「玲央と一緒に育った鯉も見れたし、すっごく幸せ」
そう言うと、玲央も、そう? とクスクス笑う。
「一緒に育った訳じゃないけどな」
可笑しそうに笑いながら、玲央の手がオレの頭をポンポンと優しく撫でる。
「あ、優月、手洗うとこ、こっち」
「あ、うん」
玲央について洗面所へ。
……ホテルみたい。
広々としてて明るい。鏡、めちゃくちゃ大きくて綺麗。手を洗って、ふかふかすぎなタオルで手を拭く。
「なんかこのお家」
「うん?」
玲央も手を洗いながら、鏡越しにオレを見る。
「全部明るくて、すごく綺麗」
「……まあ、そうだな」
くす、と笑われて、あれ、見たまんますぎたかなと思っていたら。
「居心地よくて好きだったから……優月も気に入ると嬉しいな。……ってまあ、ここはじーちゃんちであって、オレんちじゃないけど」
手を拭きながら、オレを見て笑う玲央に、あ、と突然納得。
玲央のマンションの部屋。
なんか似てるかも。
広くて明るくて。すごく、居心地がいい。自然とそういうのを選んだのかな?
似てるって、そう言ったら何て言うのかなあ……と思って、ふふ、と笑いながら。
まだ玄関と洗面所しか見てないから、言うのは後にしよ。
「優月、部屋にいこ」
「うん」
背中に優しく触れてくれる玲央の手を愛しく思いながら、並んで歩き出した。
113
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる