713 / 825
◇同居までのetc
「何してても」*玲央
しおりを挟む綺麗に並べた刺身と、酢飯と海苔とをテーブルに並べて、二人で座る。
「いただきます」
そう言って、海苔にご飯と刺身、くるくる巻いて、優月が嬉しそう。
「なんかもう子供じゃないけど……」
「ん?」
「やっぱり手巻きは嬉しい食べ物みたい」
そんな風に言って、嬉しそうなの、ほんと可愛いなと思う。オレだとなんとも思わずに普通に過ごしてしまいそうなことを、嬉しいって幸せそうにしてんのが新鮮すぎて、可愛いし。
なんとなく、優月がずっとこんな風に生きていけたらいいなと思う。で、その側に居られたら。多分、優月が居ない未来より、オレは幸せな気がする。
「なら良かった」
つか、なんかオレ、今、また歌詞につながりそうなこと考えてたな、と思って、笑ってしまいながら答えると、優月がオレをじっと見つめる。
「玲央は手巻き寿司、してこなかった?」
「だな。刺身で食べるか、店で食べるか……食べたことはあるよ」
「そうなんだ」
「お好み焼き食べてないのと、同じ理由かも」
そんな風に皆で囲むような食卓ではなかったし、と思ってると。
優月は、ふふ、と笑う。
「ん?」
「玲央が、手巻き寿司パーティする? って聞いてくれたのが、なんか嬉しかった」
ああ、それね。と、苦笑が浮かんでしまう。
優月は、パーティーっぽい時に、手巻き寿司を食べたって言ってただけで。別に「手巻き寿司パーティー」をしたって言ってた訳じゃなかったのに。
確かに。自分でも何言ってんだとは思ったんだよな。
「なんか勝手に口から出た」
「ふふ」
うんうん、と頷いて、優月は笑う。
「ねね、玲央、お店の手巻き寿司ってさ、すごく綺麗だよね」
「そうかもな」
「双子たちとさ、誰が綺麗な手巻き寿司を作れるか大会をしてたんだけどさ」
「何それ」
「え」
聞いた瞬間、ぷ、と笑ってしまうと、優月は「変だった?」と照れ笑いを浮かべている。
「いや、面白いからいいけど」
「面白いって言われてる……」
優月もクスクス笑いながら、オレを見つめてくる。
「父さんと母さんにね、皆で作ってあげるの。で、どうぞってして、誰が上手に綺麗に巻けたか判定してもらうんだよね」
「誰が勝つの?」
「樹里かなあ。なんかオレと一樹はいい勝負というか……」
むー、と優月が口をとがらせているのが、可愛いなとか思いつつ。
話を聞きながら、海苔にご飯をのせて、綺麗にか、と考えてみる。
「なんか、お店のを思い出しながら、形とかは綺麗にするんだけど、なんでか違うんだよね。ああいう風に、綺麗にはならなくて。美味しいからいいんだけど」
「形っていうか、色を考えてみれば?」
「色?」
「優月、得意そうじゃん、色使いとか」
「そっか、色かぁ」
んー、と刺身を見て、優月が考えてる。
「そっか。さっきお刺身置いた時と一緒かな。緑のものと、赤とか白とか巻けばいいのかな」
「かもな。店のってどんなだっけなぁ」
あんまり綺麗とか考えずに食べてたな、と笑いながら、シソの葉とサーモンをのせて、いくらを少しのせてみる。
「こんなふうなのは? 丼とかにこんな感じでのってるよな?」
「ん?」
オレの手元を見た優月は、見た瞬間、目を大きくしてキラキラ笑顔で嬉しそうな顔になる。
「すっごくイイ~綺麗」
「ん」
「そっか、シソとか巻いてあるかもね、お店の。ていうか、いくらが可愛い、それ」
「まあこれ、なんかこういう感じの見たことあるって感じだけど」
「んー、美味しそう」
じっと見つめられるので、ふ、と笑ってしまいながら、少しだけ醤油をつけて、優月の口元へ。
「ん」
ぱく、と嬉しそうに食いついて、モグモグしてるのが。
……ああ、も、可愛いよな。
つか、「誰が綺麗な手巻きずしを作れるか大会」ってなんだ? とも思って笑ってしまったのだけれど。優月と双子たちが楽しそうに巻いてる姿が容易に想像できると、なんかもう、全員可愛い。
「オレ、次の大会出たら、勝つかも。お刺身も上手に並べられそうだし。今度帰る時、手巻き寿司にしてもらおうっと」
そんな事を言いながら、残りの手巻き寿司をオレの手から、ぱく、と食べる。
次の大会って何、と笑ってしまいながらも。
「じゃあその大会、オレも出ようかな」
クスクス笑いながらそう言ったら、「玲央はダメ」と断られる。
「なんで?」
「えー、なんか負けちゃいそうだから」
ふふ、と笑って、優月はオレを見つめる。
「嘘。……ていうか、うちの大会、出てくれる気あるの?」
「あるけど?」
「そっちが嬉しい」
心底嬉しそうに笑う優月に、こっちのが嬉しいけど、と思いつつ。
ちゅ、と頬にキスすると、また優月の瞳が、めちゃくちゃ緩む。
つーか何してても可愛い。
オレ、変になってる? ……ま、いっか。
(2023/10/17)
※次、1ページだけ、番外編「金木犀」です。
後書き。
うわ、17日もあいてました👀
お久しぶりです。近況報告でつぶやいてますが、戻ります♡
またよろしくです。
147
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる