上 下
708 / 825
◇同居までのetc

「昔の噂」*玲央

しおりを挟む


 車に乗って、シートベルトを締めて、エンジンをかける。
 隣に座った優月が、オレを見てくるので目を合わせた。

「お昼、色々って?」
「ん、なんかね、まだ玲央の噂が昔のままみたいでね。春さんがそれを聞いちゃったらしくて、オレを心配してくれて……」
「ああ、そうなのか」
「春さんて、オレのこと、お兄さん目線で見てくれてるみたいでね。大丈夫って聞かれて」

 なるほど。
 ……お兄さん目線、ね。まあでもあの人はそんな感じな気がするけど。

「だからね、ごめんね、玲央、あの……」
「……?」

 なんだかとても言いづらそうな顔の優月を見つめ返す。

「どした?」
「……あの、勝手に見せてごめんね」
「何を?」
「……スマホの、やりとりを、見てもらったの」
「――――……ああ、オレと、優月の?」
「うん。ごめんね」

 そう言われて、考えるけれど。

「別にいいよ」
 そう言って、困った顔をしてる優月の頬をつまんでみる。

「思い出す限り、可愛いとかハムスターとか、言ってるくらいしか無いし」
「……うん」

「ずっと一緒に居るから、そんなにやりとりしてないもんな」
「うん、そうなんだけど」

「つか、なんかあったっけ、見られて困るようなやつ」

 考えながら、優月の頭をヨシヨシしてから離すと、優月はぷるぷる首を振る。

「ううん、その、ハムスターの話とか……後で、キス、しようね、とか」

 キス、のところだけちょっと恥ずかしそうに言った優月を可愛いと思いながら、そんなの書いたっけと考えてると。

「オレがそういうスタンプ押したら、後でしようなって言ってくれたの覚えてる?」
「ああ、入れたな」

 ……なんか見たまま流れるように入れたような気がする。あまりに普通に入れたから、忘れてた。

「なんか、それ見せたら、随分噂と違うみたいって……ハムスターが可愛いって言ってる玲央が可愛いかもって、春さんが言ってて」
「オレが可愛いっていうのは、ちょっとあれだけど」

 苦笑いが浮かんでしまうが。

「ああ、でも……それでどうにかなったのか?」
「うん、そう、だと思う」
「ふーん……」

 なるほど。と思いながらもちょっと気になったのは、立ち話とかじゃないのかなということ。

「それって、昼に話したのか?」
「あ、うん。呼ばれて、ご飯一緒に食べた」
「そっか。……もしかして、結構大変だったか? 信じてもらうの」

「えと……んー……でもスマホ見せたらわりとすぐで」

 ちょっと困り顔の優月。

「でも勝手にやり取りみせちゃってごめんね?」
「いや、それは全然別に……」

 言いながら、ああ、なんか優月が「スマホを勝手に見せる」くらい、大変だったのかなと思って、ふ、と見つめた。

「もしオレの噂が原因でさ」
「?」
「今後、またそういう、誰かに心配されるとかがあったら」
「うん?」
「オレのこと、呼んでいいよ」
「――――……」

「直接、その人の気が済むまで話すから」
「――――……いい、の?」

 じ、と見つめられて、聞かれるけど。

「良いに決まってるし。ていうか、オレのせいじゃんか、優月が困る必要はないから」
「――――……」

 優月はオレをじっと見つめていたのだけれど、なんだか、うる、と涙目に。
 え? と思ったら、優月の手が伸びてきて、ぎゅう、と首に抱き付かれた。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

処理中です...