上 下
689 / 825
◇同居までのetc

「左胸が」*優月

しおりを挟む


 優しいキスが触れて、すぐ離れる。

「髪、乾かすから座んな」
「うん」
 言われるまま、座ると、玲央がドライヤーのスイッチを入れる。

 こっちに来ても、やってくれるんだなあとホクホクしつつ。
 この部屋に玲央がいることを、やっぱり、不思議に思ってしまう。

 この部屋の一人暮らしも一年。すごく楽しかった。
 初めて実家を離れて、寂しさも感じたけど、一人ってワクワクもしたり。
 家事とかも、全部自分でやらなきゃいけなくて、今までやってなかったようなことも、自分でやるようになって、一年。結構成長したかなあ、とか、思ってた。
 隣に春さんも居て、ちょこちょこ会話もできたから、すごく孤独な感じも無かったし、友達も泊りに来たりしてたし。

 乾かしながら、優しく触れてくれる玲央の手を気持ちいいなと思いながら。
 あと三年は、ここに居ると思ってたから。
 ここを出るのかぁ、と思うと、感慨深いというか……。
 玲央のところに行くのは嬉しいんだけど、ここがなくなるのは少し寂しいような気もして、なんだか、すごく色々な気持ちが浮かぶ。

 玲央と一緒に居たいから。玲央のところに、住む。

 もう色々起きる、全部の変化が、ただ、「玲央が好き」というそれだけのためなんだなあって、思うと、すごいことな気がする。


 オレ達って、会ってすぐ、こんな感じで、そのままずっとこんな感じで。
 なんか勢いのまま、ここまで来てるけど。

「はい、おわり」
 玲央がドライヤーを止めて、よしよし、と頭を撫でた。振り返って、玲央を見上げる。

「ありがと」

 笑顔で言うと、玲央は、ん、と笑って。
 優しい手が頬に触れて、そのまま、オレにちゅ、とキスをした。

「ドライヤーしたての優月、可愛い」
「……ふふ」

 その言葉、いつも言うので、ふ、と微笑んでしまう。
 可愛いかな?って最初は疑問だったんだけど、なんとなく、玲央がそう思ってくれているってことは、ちょっと受け止めてきたような。
 ドライヤーのコードをまとめてる玲央を見上げながら、「あ」と声が出る。
「ん?」
「玲央もね、可愛いよ?」
「ん?」
「ドライヤーしたての時」

 手を伸ばして、玲央の髪にふわ、と触れる。

「玲央も、すごく可愛い」

 そう言って笑うと、玲央はしばらくオレを見てたけど、そのうち、クスッと笑って、頬に触れてくる。ドライヤーをテーブルに置くと、両方の手で、頬を挟まれた。

「オレは可愛くないけど、そう言ってる優月が可愛い」

 すりすりされてると、とっても幸せで。

「玲央、可愛いよ」
「……なんかオレは、可愛いって言われるの、複雑なんだけど」

 クスクス笑って、玲央がオレにキスしてくる。

「でも可愛いって言ってる優月が可愛いから、まあいっかって感じ」
「ん、ん」

 何回も、ちゅうちゅうキスされて、舌が口内に触れて、びく、と震えると、深く重なってきた。

「……ん」

 柔らかい、キス。
 ゆっくりで。熱くて。優しい。


「……れお」

 少し唇が離れた時に、名前を呼ぶと、玲央がふわ、と笑う。

「ん」
 と返事をしながら、また唇が触れてくる。

 キス魔の玲央さん。
 ……ほんとにほんとに。キス、好きなんだろうなーと思う。

 オレも。
 好き、だけど。

「――――……ゆづき」

 うわ。……もう。

 キスとおんなじ感じの、めちゃくちゃ、ゆっくり、名を呼ばれて。
 愛しそうに、見つめられると。

 心臓が、痛すぎて。
 全然慣れない、この感覚。

「……」

 不意に、玲央の手が服の裾から入ってきて、左胸に直に触れた。

「ひゃ」
 びっくりして、固まって、胸に触れたままの玲央と見つめ合っていると。

「心臓、すごいな」

 くす、と笑って。
 また瞳を細める。

 そういう顔するから。そんな顔で、キスばっかりするから。
 そうなっちゃうんだよう……。

 顔まで熱くなってきて、その頬に、クスクス笑う玲央がキスしてくるし。

「かわい……」

 めちゃくちゃ笑いを含んだ声で言われると、もうなんかどうしてたらいいのかも分からなくなる。

「優月の心臓、はやすぎ」
 言われなくても、玲央に触れられてて、余計自分の心臓がどきどきしてるの、実感してるし。

「……玲央のせいだもん」

 思わずそう言ってしまうと。

「……知ってるけど」
 ぷ、と笑われて。

「知ってるなら、もうちょっと加減してください……」
「……無理。可愛いから」

 クッと笑い出しながら、ようやく胸から手を離して、オレをすぽ、とまた抱き締める。


「……んー。なんかいちいち触りたくなるの、どーしてかな。色々しなきゃいけないのにな?」


 そんなことを言いながら、玲央は、クスクス笑っている。
 

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

処理中です...