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◇同居までのetc

「ハートの矢」*優月

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 授業が終わって、正門で玲央を待っていた。
 雨がまた強くなって、ぼー、と地面を打つ雨を眺めていると。

「優月」
「あ。玲央」

 呼ばれて、顔を上げて、その先に、玲央の笑顔。
 ……幸せすぎる。

「ごめん、少し延びた。結構待った?」
「全然。大丈夫。玲央待ってるのは、楽しい」
「そう?」

 一緒に歩き出しながら、うん、と頷く。

「だって、玲央が来てくれるんだもん」
「待ち合わせてるんだから、当たり前だけど」

 クッと笑って、玲央がオレを斜めに見つめる。
 少し高いところから、ふ、と笑む玲央の瞳は。ほんとにカッコよくて。

 なんか、すとん、と胸にハートの矢が刺さる気分。
 ……毎回そんな感じ。心臓がハートの矢だらけになりそうだなあ、なんて、変なイメージをしていたら、玲央がまたクスクス笑った。

「あ、うん。当たり前なんだけど……玲央が、来てくれて、笑ってくれるからさ」
「ん」
「待ってるの、楽しい」
「――――……そんな、好き? オレのこと」
「うん。大好き」

 結構な雨で、皆、傘さしてて、雨の音も大きいし。
 誰も聞いてないよなーと思って、普通にそう答える。と。

 玲央は、んー、と少し口を噤んで。
 それから、苦笑いを浮かべた。

「そんな、素直に、大好きとか言われるとさ」
「うん?」

「……可愛がりたくてしょうがなくなるんだけど?」

 何だかすごく、色っぽい目で見られてしまうと。
 どき、と胸が震える。

 ハートの矢は刺さりまくるし、ドキドキしすぎだし。
 忙しくて大変だなー、オレの心臓……。

「……か……」
「ん? か?」

「か……可愛がって、ください」

 それ以外に言う言葉が見つからなくて、そう言ってみたら。
 ぷ、と玲央が笑いながら、口元を押さえた。

「……何で笑うのー」
「だってまた敬語だし。可愛がってくださいって……」

 オレと反対の方向いてるけど。クックッ、と笑ってるせいで、完全に揺れてる玲央の背中。
 もしもし。そっち向いてても、分かりますよー。めちゃくちゃ笑ってるの。

 ちょっと恥ずかしい……。変なこと言っちゃった。

 顔が熱い。だってそんなに笑われちゃうと……やっぱり大分恥ずかしい。
 むむむ、と、失言に困って、口を閉じてると。

 まだ笑いながら、玲央がオレを覗き込む。


「……見ないで、恥ずかしいから」
「んー?」

 クスクス笑う玲央。

「こっち向いて、優月」
「……」

 ちょっと膨れたまま、玲央を見上げると。
 傘ごと少し近寄られて、伸びてきた手に、ぷに、と頬に触れられる。


「可愛がりますよ。むちゃくちゃ。……ずっとな?」

 そう言って、すり、と頬を撫でて、離される。


「…………っ」

 かあああ、と赤くなる、オレの顔。

 だって、しょうがないよね、もう。なんか、すっごい、優しく見つめられて、そんな風に言われて、頬の触り方もなんかもう、くすぐったくて、ぞくってしちゃうし! 


 もうもう。玲央ってばー!
 自分がどれだけ魅力があって、心臓に良くないか、よく分かっててほしい。

 もう心臓が、ドキドキ跳ね上がったまま、なかなか静かにならない。






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