620 / 838
◇同居までのetc
「優月の絵」*玲央
しおりを挟む授業が終わってから、メンバー皆で食事をしに店に寄った。
注文を終えて、一息ついたところで。
「優月って毎週絵を描きに行ってんの?」
颯也に聞かれて、そう、と頷く。
「そんなに続けたいのに、美大とか行かなかったのは何で?」
「先生になりたいって夢もあるんだってさ」
そう言うと、メンバー皆が、ああ、と頷く。先生向いてる気がする、とそれぞれ笑ってるので、ちよっと顔が綻んでしまう。。
「玲央って、優月の絵って見たことあるの?」
「ああ……こないだ絵の教室に迎えに行ったら飾られてたから、見てきた」
甲斐の言葉にそう返すと、勇紀がぱっと笑顔になって「どんなだった?」と聞いてくる。
「んー……優月っぽかったな。優しい感じっていうか……花束の絵とか」
「へえー見てみたいなー」
「今日描いた絵、送ってくるかも」
「そうなの?」
「描いた絵見たいって、オレが言ったから」
そう言うと、皆が顔を見合わせて、ニヤニヤ笑う。
「んだよ?」
どうせろくなことじゃねーだろうけど、と思いながら聞くと。
「優月の描いた絵、送ってもらってまで見たいんだ?」
「ほんと。全部関わってたいって感じ?」
「ほんと半端ねーな?」
勇紀、颯也、甲斐が笑いながらそんなことを言う。
……まあその通りか。特に何も言うことはない、というか。
この感じのやり取りも慣れてきたし、こいつらも、ニヤニヤしながらも、最初の頃に本気で驚いてた口調ではなくなってきてる気もする。
「一生懸命描いた絵、見たいしな」
真剣な顔して描いてるんだろうなぁと、容易に予想がつく。
一生懸命なのも可愛いよな……。
ふ、と微笑んでしまうと。
「……ほんと優月すごいと思う、よな?」
颯也が呆れたような口調でつぶやいて、勇紀と甲斐に同意を求めてる。
「玲央をこんな風にしちゃうとか。……ちょっと前とは別人だし」
確かに、と頷いてる。
……慣れて来てるとは思ったけれど、やっぱり皆まだ不思議そうな部分もあるなと苦笑が浮かんだ。
「まあ……別人でもなんでもいいけど。多分オレずっとこんなだろうし」
そう言うと、勇紀が、何それ!と騒ぎだす。
「なんかさ、優月に激アマなのは分かんだけどさ。それ以外も、なんか穏やかになったよね、玲央。前だったらこっちがからかってたら、つっかかってきただろー?」
「確かにな。 なんか今日イライラしてるなーとかも、全然ねえよな」
「やっぱり早寝早起きとかって体と心に良いのか?」
勇紀、カイ、颯也の順で次々笑いながら言うので、もう敢えて「相当健康的だから、精神、落ち着いてんじゃねえの?」と言ってやる。三人は超ニヤニヤしていたのに、バッとオレを見て。
「……なんかやだ。健康的な玲央とか変すぎる」
勇紀の言葉に、二人が小さく頷いてる。「健康的で朝早くて良いって言ってたろ」と言うと、皆、苦笑い。
「ああ、そういえばさ」
オレが言うと、勇紀が「なに? またのろけ?」と苦笑い。
「ちがうって。……こないだ教室に絵を見に行った時は無かったんだけどさ」
「ん?」
「優月が描く人物画がさ、優月っぽくないんだって」
「どゆこと?」
勇紀が首をかしげて聞いてくる。
「オレ、教室に貼られた絵で、優月っぽい雰囲気の絵を探して、これかなーとか当ててたんだけど」
「当たった?」
「ああ。優月っぽい優しい感じだったから。まあ何枚かそういうのあったんだけど、ぽいなーっていうのはあったから」
「まあ、優月っぽいって、オレらでもなんとなく分かるよな」
甲斐が言うと、颯也も頷く。
「でもなんか、優月が人物画を描くと、描かれてる人の雰囲気になるから、優月っぽいのを探しても分かんないから面白いんだよって、優月の先生が言ってたんだよ」
「へぇ。面白そう。玲央が曲作ってる絵も、確かに玲央っぽかったもんね。なんか、ものすごーいストイックな感じ」
「うまいよな、優月。絵はあんまり詳しくないけど、ずっと描いてるだけのことはある気がする」
そう言いながら、運ばれてきたアイスコーヒーを一口飲むと。
「なあ、オレ、なんかちょっと面白いこと思いついた」
颯也がニヤニヤしながらオレ達を見る。
「いつかさ、優月にオレらの絵を描いてもらって、アルバムのフォトブックとかに入れ込むっていうのは? 良くないか?」
そう言った颯也に、オレも甲斐も勇紀も、数秒固まる。
「……いいな、それ」
少し考えた末、オレが言うと、待ってましたとばかりに、勇紀が、採用、と騒いでる。
「甲斐、美奈子さんと里沙さんにも聞いといて」
オレが言うと、甲斐が面白そうに「OK」と言って笑う。
「OK出るまでは優月には内緒な」
言うと、三人が同時に了解、とハモり、顔を見合わせて笑った。
240
お気に入りに追加
5,436
あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる