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◇同居までのetc

「曲決定」*玲央

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 音が鳴り始めてすぐ、テーブルに肘をついて、顎を乗せる。
 そのまま目を閉じて、音を確認。
 ここ少し直すかな、とたまに思いながら。

 二曲続けてかかるので、両方聞き終えてから、顔を上げた。
 少し無言の後。


「――――……すげえいい。な?」

 皆が笑顔で。
 勇紀が先にそう言って、颯也と甲斐を見つめると、二人も頷く。

「曲って……精神状態、出るよな」
「マジでそう思う」

 颯也の言葉に甲斐が頷いて、ちらっとオレを見てくる。

「特に二曲目。……なんか玲央が作るにしては珍しい」

 颯也が言いながら、笑う。
 二曲目は、優月を思って作った曲の方。

「こんな感じの涼しい音で、切ないのかと思いきや、幸せな感覚の曲とか――――……な?」

 そう言って、甲斐と勇紀に視線を投げる。

「曲聞くと、玲央が変わってンの分かる」
 面白そうに笑う甲斐と。

「玲央って、優月に会ってまだ間もないのにな? これからの曲、すげー楽しみかも」
 勇紀も。楽しそうに笑う。

 ……自分でも分かっていたけれど。
 ――――……今まで作ってきた音とは、かなり、違う。
 少し曲調を変えたとか、そんなんじゃない。別人が作ってるみたいな曲だよなと、思ってはいた。
 
「……優月には、キラキラしてるって言われた。……聴いた人は幸せになると思うって」

 そう言ったら、三人は、ふ、と笑う。
 ――――……珍しく、何も突っ込みが入ってこない。

「……まあ、これ。優月を見てたら浮かんだっつーか。過去最速だった」

 そう言った瞬間。
 今度は可笑しそうに笑って、「つか、ノロケか」と勇紀が速攻で突っ込んでくる。

「もうじゃあそっちは、玲央が歌詞も考えろよ。下手な歌詞つけたら怒られそう」
「だな。もう一曲はどーする? 誰か考える? 玲央考える?」

 甲斐と勇紀の言葉に、少し考えてから。

「もう一曲は任せる。曲はこの二曲でいいのか? 誰か他に候補の曲作んねえの?」

 そう言うと、苦笑いの颯也が、オレを斜めに見やって、ヒラヒラ手を振った。

「今の幸せオーラ全開のお前の曲に勝てる気しないから、パスー」
「オレも」
「パス」

 颯也に続いて、勇紀と甲斐も言う。

「玲央、曲のデータ、スマホに送って。歌詞早い奴がつけるっつーことにしよ」
 甲斐の言葉に、家帰ったら送る、と伝える。

「とりあえずもう何回か、流そうよ」

 勇紀に頷いて、もう一度流し始める。
 ここが好きだとか、こうしたら~?とか、好きなこと言ってるのを聞きながら、一限を過ごした。


 部室を出る時、ふと甲斐が振り返ってオレを見た。

「あ、そだ、玲央、あの部屋貸して」
「OK――――……って、あ、悪い。鍵持ってない。しばらく使ってないから置いてきた」
 甲斐にマンションの鍵を貸そうと動いた瞬間、置いてきたことに気づいて、そう言った。すると。

「鍵持ってないなんて、初めてだよね!」
 甲斐よりも早く、勇紀がかなり暑苦しい感じで乗り出してくる。

「つか、もう、ほんとにあっちを使う気ないんだね」

 ニヤニヤされて、めちゃくちゃじーっと見つめられる。

「――――……つか、使う訳ねーだろ。優月とあっちに行く意味はねえし」
「……ふふふーん、そっかー」

 気持ち悪いほどご機嫌に、勇紀が笑ってる。

「まあ別行くから全然いいけど」
「あそこすげー景色良いもんね。綺麗だし」

 甲斐と勇紀が言うのを聞きながら、「今度持ってきとく」と言うと、ぷ、と甲斐が笑った。

「ほんと、玲央――――……」

 そう言ったきり、次の言葉を出さずに、クックッと笑ってる。

「お前感じ悪りーな、せめて全部言ってから、笑えよ」

 そう言うと、甲斐は口元を軽く押さえながら。

「なんか何て言ったらいいか分かんねえんだよな……」
「じゃあ言うな笑うな」

 そう言って、部室のドアを閉めて、歩き出すと。
 後ろから歩き出す皆が、分かる分かる、とか言い合っている。

 ふー、とため息。
 ――――……でも。


 曲が一発オーケーだったのは、なんか良い気分。

 しかも。優月のこと思いながら書いた曲。
 良いって言われたって、優月に言おう。
 きっと、嬉しそうに笑うだろうなと、思うと。顔が綻ぶ。


「また笑ってるしー! もー玲央、キモイーどうなんだよ、それー! どうせ優月のこととか考えるんだろうけどー!」



 ――――……騒がれても、無視できる位には、機嫌がイイ。






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