524 / 830
◇同居までのetc
「一人の世界」*優月
しおりを挟む「――――……」
玲央が部屋を出て行って、少し経ったのだけれど、オレはまだピアノのところで、ぼー、としながら、音を響かせていた。
連弾が終わった後、抱き締められて、しばらくはそのままくっついてたのだけれど。シャワー浴びてくるから待ってて、と玲央が言って、軽く頬にキスして離れていった。
玲央って。
――――……あんな風に、ピアノ、弾く人なんだ。
学園祭のイケメンナンバーワンになってた時とか、出会った時の印象からしたら、なんだか全然違う。
派手で目立つ人。色んな人の真ん中で、騒いで、楽しそうで。
……今も別に、見た目が変わってる訳じゃないけど。
……優しいのはもう知ってたんだけど。
――――……玲央のピアノ。……良かったなあ。
さっき。
玲央と演奏したのも。
……気持ちよかった。
ふ、と気持ちが和らぐ。
連弾、いっぱい弾いたことあるけど。
……本当に、今までで一番、気持ちよかった。
さっき弾いた曲のメロディーを、ゆっくりと弾いてみる。
一人で弾いても、もちろんちゃんと曲なんだけど。玲央と一緒に弾いた重なった音たちが綺麗すぎたから、どうしても、物足りなく感じる。
玲央と、弾く呼吸が合うっていうのが。
すごく嬉しい気がする。
波長というか……無理に合わせることのできない、元の部分ていうか。そういうのが合ってる気がするのって、なんだかとってもとっても、嬉しい。
……玲央といると、それだけで楽しいからなあ……。
――――……なんか、引き寄せられてしまうみたいに、好きになったっけ。
玲央が弾いてくれた方は、メロディを弾く時もあるけど、大体は音を重ねる方だから、一人で弾くにはちょっと難しい。右手だけで練習してみる。
オレのと上手に合わせてくれたのは、玲央がうまいから。
……曲作ったりでピアノ弾いてるから、上手なままなのかな。
久しぶりに弾くピアノの音に、なんだか気持ちよくて、覚えている曲を続けて弾いていると、不意に、玲央が隣に立った。
「あ。玲央。おかえり」
「ただいま」
「気づかなかった」
ピアノを弾くのを止めて、玲央を見上げると。
肩に、玲央の手が乗って、ぽんぽん、と叩かれた。
「最後まで弾いて?」
そう言って、玲央が離れて、ソファに腰かけた。
ん、と頷いて、続きを弾き始める。
ピアノって、弾いてると、無心になれる。
絵を描いてる時もそうだけど。
そういうのが、オレは好きみたい。
ピアノも絵ももちろん誰かが教えてくれて、見てもらったり、誰かと一緒にしてきたし。表に向けて弾いたり描いたりもするんだけど――――……でも一番大事なところは、一人ですることが多くて。自分の中と向き合うみたいな感じ。
そんなのが好きで、ずっと出来たらいいなあなんて、思って。
これに関しては、一人で無心、が好きだったんだけど。
――――……玲央を描いたり、玲央と弾いたり。
なんかこの二日間。玲央に絡んでそれらをするのが楽しすぎて。
玲央がすんなりとオレの世界に入ってきて、自然と居てくれるのが。
というか、玲央だけじゃなくて、自分以外の誰かが。
オレのこの大事な部分に居ることを、こんなに好きだと思う日がくるなんて、思いもしなかった。
290
お気に入りに追加
5,325
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
囚われ王子の幸福な再婚
高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる