【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

悠里

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◇同居までのetc

「連弾」*優月

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「優月、ここ座ってて」

 ピアノの椅子に座らされて、玲央が一旦立って離れる。

「玲央、ピアノ触ってもいい?」

 後ろの棚で、何かを探している玲央が振り返り、「もちろん。いいよ」と笑う。

 そっと指を置いて、音を確かめてみる。
 弾き心地が、すごく良い。

「良いピアノだね……」
「ん。弾き心地で選んだから」

 言いながら、玲央が何かのファイルを渡してくれる。

「なに?」
「連弾の楽譜」

「あ。前、話したね」
「ん」

 パラパラとめくって、ある曲で止まる。

「これなら弾いたことあるよ」
「ん。じゃあ、今やってみる?」

「え、やるやる!」
「はは。即答。好きって言ってたもんな?」
「うん。玲央もでしょ?」
「ん」

 笑いながら玲央がメトロノームを手に取る。

「オレ、ピアノ自体が久しぶりすぎだけど、出来るかな」
「ゆっくりやろ」

 言いながら、玲央がオレを見つめる。

「これくらい?」
「うん」

 玲央がゆっくりめにメトロノームをかけて、ピアノの上に置いた。

「優月が旋律の方弾いて」
「うん」

 連弾は、一台のピアノで、二人で演奏すること。
 メロディーを主に担当する方よりも、玲央の方が難しい。ピアノの先生とやる時は大体先生がやってくれていたっけ、と思い出す。


「一回楽譜見ていい?」
「いいよ」

 オレが楽譜に目を通している間に、玲央がペダルに合わせて座りなおしている。ざーっとページをめくる。

「……うん、大丈夫だと思う」
「ん」


 なんか緊張する。
 ――――……けど、とても、良い緊張感で。
 
 ふ、と、隣の玲央を見上げる。
 優しく笑ってくれる玲央に、笑い返してから、ピアノに向きなおる。


「――――……」

 弾き始めると、玲央の音が重なってくる。


 連弾の何が楽しいって。
 一人じゃ出せない数の音が鳴り響いて、音に迫力が出たり深みが出たりすること、だと思うけど。

 ――――……一緒に弾く人と、呼吸があうと、すごく気持ちいい。
 音が邪魔をしあわず、綺麗に響くから。

 もちろん、合わない人だって居る。
 そこは話し合ったり、練習したりして合わせるのだけれど、初めて弾いてすぐ、根本的に合うか合わないかは、大体分かる。


 玲央は。
 ……すごく、弾きやすい。
 
 音が、この上なく綺麗に重なって、響いて、広がっていく。

 なんかすごく、楽しすぎて。
 いつまでもこのまま弾いていたい、なんて思ったのに。
 あっという間に、一曲、弾き終わってしまった。

 最後の音を弾き終えて。
 シン、と静かになる。


 余韻に浸っていたくて、黙っていた。
 数秒おいて、玲央に視線を向けて、見つめると。

 玲央も、ゆっくり、こっちを向いた。


「――――……どうだった? 優月」
「……オレは……今までで一番、気持ちよかった気がする……」

 そう言ったら、玲央もふんわり笑った。

「オレもそうだった」
 そう言われて、めちゃくちゃ嬉しい。

「曲が終わんなきゃいいのにとか、初めて思ったかも」

 クスクス笑う玲央の言葉に、「オレも。ずっと弾いてたいって思った」と、そう言うと、すぽ、と抱き締められる。


「――――……相手の音を聞いて息を合わせろって、よく言われたけど……すっげえ、意味が分かったかも」

 抱き締められたままで、そう言われて。
 嬉しくて、ふふ、と、笑ってしまう。



「――――……優月、すげー……好き」


 気持ち良すぎて、弾んでた心臓が。
 玲央に抱き締められてると、また違う、ドキドキで。


 抱き締められたまま、よしよし、と頭を撫でられて。
 ――――……うん、と、頷いた。



 

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