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◇同居までのetc

「うれしいこと」*優月

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「玲央、今、話してた。一緒に、暮らそうかなって……」
「ああ」

 頷く玲央と視線を交わすと、母さんがすぐに玲央に向き直った。

「玲央くんの方は、良いの?」
「はい。……良いというか、オレから誘ったので」

 玲央が母さんに向けて、まっすぐ、そう言った。

「優月が入ること、ご家族は何て言ってる?」
「まだ言ってないんですけど……今度、優月、とりあえずオレの祖父のところに一緒に行くんですけど。優月のこと、気に入ってるので、多分父も母も大丈夫だと……」

 玲央の言葉に、不思議そうな母さん。

「優月、玲央くんのおじいさんも知ってるの?」
「あ、そう。久先生のお友達だったの。教室で会って判明したっていうか……偶然なんだけど」
「まあ……なんだかご縁があるのね」

 母さんはクスクス笑いながら。

「もう大学生なんだし、一人暮らしは、優月が自立するためにさせたことだから。優月が決めたことなら、基本反対はしないけど」

 笑顔で言ってくれるので、ちょっと安心しながら、聞いていると。

「マンションの方は、管理会社に聞いておくね。でも、暮らし始めてからまた、やっぱりやめようとかなると、結構手間だし……本当にお互いがいいのか、もう一度よく考えてみてね?」

 そう言われて、玲央と二人、顔を見合わせてから。

「うん。……分かった」
「はい」

 母さんの言葉に、頷く。

「――――……」

 ……玲央とのこと。
 言った方がいいのかなと、ちらっとかすめるけど。

 ――――……今日は双子もいるし。時間も、無いし。
 うん。今日は、しょうがない。
 二人で暮らすって確定させる前に、ちゃんと話してからにしよう。

 そう思って、その話は、終わりにした。
 それから、一樹と樹里と話して、また来るね、と伝えてから、家の外に出る。玲央に絡みまくってる一樹と樹里に笑っていたら。
 母さんがオレの隣に並んだ。

「優月、ありがとね、来てくれて。……まあ、二人で仲直りすればいいと思ってたんだけど……たまには喧嘩もいいかなって」
「うん。ありがたみがわかるかもね」

「でもまあ、楽しそうだから。来てくれて自然と話せてたし、良かった」
「そうだね」

 笑って言う母さんに、オレもクスクス笑いながら、返事をする。

 ――――……母さんに、玲央のことを、ちゃんと話してないことが、今更少し胸にちくん、としたものを走らせるけど。

 時間もないし、仕方ない。また、すぐ、来よう、と思った時だった。

「優月、あのね」
「ん?」

「毎日顔見れないから、これだけ言っとくね」
「うん。何?」

「お父さんと私は、子供たちの味方だから」
「――――……」


「何があっても、味方だからね」
「――――……え。……あ、うん……?」

 頷きながら、思わず首を傾げてしまう。

「まあそれだけ。子供たちが信じて頑張ろうとしてることなら応援するし」
「――――……」

「それだけ覚えといて」


 笑顔からは、何にも読み取れないけど。
 めちゃくちゃ楽しそうな笑顔で、母さんが笑う。その瞬間。


「「ゆづ兄~」」

 二人がぎゅー、と抱きついてきた。


「「またすぐ来てねー!!」」

 こんな時ほど、余計シンクロしまくりの、二人。
 抱き着いてる背中をポンポンしていると、玲央が笑いながらこっちを見てる。

「うん。わかった。またすぐ来るからね」
「「絶対だよ」」

「うん」

 絡んでる二人と話しながら、車について、ドアを開けると、乗り込んでシートベルトをしながら、皆を見上げる。玲央がエンジンをかけて、助手席の窓を開けてくれた。


「じゃあ、またね」

 母さんも近くでニコニコしてる。


「またね、優月。ちゃんと食べてね」
「うん。あの……」
「ん?」

「……また、玲央と、来るね」

 そう言うと、母さんは、ん、と、オレを見つめてから。
 ふ、と笑顔を浮かべた。
 

「分かった。今度は父さんも休みの時においで」
「――――……うん」


 なんか、微妙すぎて。
 ……どういう意味なのかは、よく分からない。

 ――――……分かっているのか、分かっていないのかも。
 よく分からないけど。


「ありがと」

 言ったオレに、母さんがまた笑った瞬間。双子が窓の所に割り込んできて、タッチを求めてくる。


「「またね、ゆづ兄」」
「うん、またね」

「玲央くんもまたね!」
「バイバイ、また来てね」

 一樹と樹里の言葉に、玲央も頷いてからハンドルに手をかけた。

「玲央くん、運転気を付けて」
「はい。また」

 母さんに頷いて見せて、玲央が少し頭を下げてる。
 皆に手を振りながら、車が発進して――――……少し離れて、すぐ。



「……優月、似てる」

 クスクス笑う玲央。

「――――……オレそんなに子供、得意じゃないんだけど……」
「え、そうなの?」

 そうは見えなかったけどな、と玲央を見ていると。

「得意じゃないつーか、あんまりかかわることもなかったというか?」
「あ、そっか……」

「……だけどなんか、優月が小さくなったみてえって思ったら、見た時から、可愛く見えて」


 そんなに似てるかは、よく分からないのだけれど。

 すごく嬉しいことを玲央が言ってくれている気がして、ついつい顔がほころぶ。





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