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◇「周知」
「優しい?」*玲央
しおりを挟む「勇紀は行くのか、お好み焼きとか」
「オレ、好きだから、お好み焼きー」
「あ、そう」
言われてみれば、あの雰囲気、こいつは好きそうだ。
「なー玲央。お好み焼き屋行くとさー、すっごい匂いついて帰らない?」
「ああ。すごいな、あれ」
言った瞬間、勇紀が、テーブルに突っ伏した。
「?」
何だ?と思ったら、震えてる。
――――……と思ったら、顔上げて、めちゃくちゃ笑い出す。ヒーヒー言いながら、「もー、ほんと。SNSに流していい?」とか言ってくる。
「何をだよ」
そう聞くと、決まってんじゃん、と笑う。
「玲央がお好み焼きの匂いをさせてた件って。恋人にせがまれて初体験、みたいな感じで―」
「……」
……無視しよう。
冷めた目で見てても全くめげず、涙目で笑ってる。
「……なんかさぁ。優月と居ると、玲央が、人間ぽくなるね」
「――――……お好み焼きの匂いついてると、人間なのかよ」
「いや、そうじゃなくて。なんて言うんだろ……」
やっと笑いを収めて、んー、と考えた後に。
「なんか今までの玲央ってさ、ドラマかなんかの、王子様キャラみたいなのを地でいってたっていうか。別に、感情が無かったとか思ってないよ。オレ、前の玲央も好きだし。じゃなきゃ一緒になんて居ないし」
「――――……」
こういう返答に困る事をさらっというのは、ちょっと優月に似ている。
だから仲良いのかな、と思ったりしていると。
「ほら、玲央の書く詞ってさ、玲央っぽくなかった訳。玲央のイメージじゃないというか、玲央がこんな詞書くの意外、みたいな。……まあ、オレらは何となく、玲央の中身はこっちなんだろうなーって思ってたけどさ。だって、嘘で詞なんか書けないじゃん? ――――……でもなんか、優月と会ってから、外も、中身に合って来た感じがすんだよね」
「――――……」
「自分で思わない?」
「……そんな風に思ってなかった」
「まあそうだろうけど。 言われたら、そうかもって、思わない?」
クスクス笑いながら勇紀が言う。
「お前は、よく、お好み焼きの話から、そこまで飛躍できるよな……」
そう言うと。勇紀は、あは、と笑ってから。
「だって、前の玲央なら、お好み焼きいこーとか言ったら、焼くのとかめんどくさい、て言いそうだったもん。それがさー、優月が行きたいって言ったら、絶対、即いいよって言ったんでしょ?」
「――――……」
……どうだっけ。
「絶対すぐオッケイしたはず。で、なんでこんな、名刺にサインなんかすることになったの?」
面白そうに聞いてくる勇紀。
「……案内してくれた店員がAnkhのファンで……先に優月がその子の様子に気づいて、ファンなのかって聞いたら、号泣しちまって」
「へえー」
「結局、泣くのが止められないからとか言って、運んだりは別の店員がしてたんだけど、会計だけさせてくださいって言ってたから……持ってた名刺にサインしただけ――――……なんだけど……こんな名刺、ネットに載せられると逆に恥ずかしいよな……」
「んなことないよ。ファンの子達は、いいなーって羨んでるし」
勇紀がクスクス笑って、オレを見る。
「優月がしてあげたらって言ったの?」
「ん?」
「サイン」
「いや。何となくしただけ」
オレがそう言うと、勇紀は、ふーん、と頷いて。
それから、くすくす笑い出した。
「なんか、玲央、優しくなってるよね」
「――――……そうか?」
「絶対なってる」
勇紀は可笑しそうに笑って、オレを見つめる。
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