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◇「周知」

「甘える」*玲央

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 マンションの駐車場に到着すると、トランクから優月の荷物を持って、エレベーターのボタンを押した。

「玲央?」
「ん」

「オレ、持てるよ?」
 そう言われて、ん、と優月を見下ろす。

「分かってるけど」
「うん」

 見上げられて、くす、と笑ってしまう。

「重くないし。それより早く帰ろ」

 オレがそう言うと、特にそれ以上は何も言わず、優月は頷いた。

「ありがと」 
 それだけ言って、オレの隣に立つ。

「な、優月」
「ん?」

「男なの分かってるし、女よりは力あるのも分かってる」
「うん」

「でも甘えといて」
「……甘える? って……いいの?」

「ん」

 ふふ、と笑って頷くと、優月は到着したエレベーターに先に乗り込んで、ボタンを押す。

「でもそれ言うとさ」

 閉まるボタンを押して二人になると、優月はオレのすぐ横でまっすぐ見つめてくる。


「でも……オレも――――……玲央、甘えてほしいかも……」


 ――――……。

 優月の、何だか恥ずかしそうな表情に。
 可愛いなと思いつつも。


 オレが甘える、という、予想外の言葉に。
 何だか、瞬きばかりしてしまう。

 オレと見つめ合いながら、優月は、えーと……と呟いて、その内、苦笑い。

 そこで、エレベーターが、部屋の階に到着した。


「玲央は、甘えるっていう選択肢が……もしかして、全く無いの?」

 エレベーターを降りながら、優月がオレを振り返って、クスクス笑いながら見上げてくる。

「無いかもな……」
「そうなんだ……そっか……」

 うーん、そっか、と何度も言いながら、優月が隣をトコトコと歩いてる。

 ……可愛い。

 部屋のドアを開けると、優月が「ありがと」と中に入って。
 くる、と振り返った。



「玲央も、オレに何か――――……なんでもいいから、甘えられる事、探して?」



 優月は、オレを見上げて、すごく楽しそうに微笑む。
 荷物を玄関に置いてから、優月を見つめ返して。



「――――……」

 甘える、か。


 んー、と、考えて。
 優月を自分の方に引き寄せた。


「じゃあ、お前は……」
「うん?」

「オレにくっついてて?」
「くっつく?」

「なるべく近くにいて?」
「……なにそれ。家で?」

 ふふ、と優月が笑う。


「そう。家で。お前が近くに居てくれれば、それでいいよ」
「それ、甘えてる事になる?」

「なる。多分」
「多分って……」

 優月がクスクス笑ってる。

「オレはもっと、何かしてあげるとか……助けるとか……?」
「でもオレ、マジでくっついててくれれば、良いんだけど」


 優月は、オレを見上げて、ぷ、と笑った。

「じゃあ、それはする。……もうちょっとできそうな事ないか、考えとくね?」

 ん、と二人で何となく納得して。
 とりあえず家に入る事にして、靴を脱いだ。

 と、そこで、ふと。


「……なんかさ。優月」
「うん」

「なんか、匂う」

 オレが言うと、優月は、あー、と言いながら笑った。


「お好み焼きの? 匂いかな?」
「ああ、それなのか。――――……つか、かなり、匂うな」

「どれどれ??」

 なんて言いながら、優月が近づいてくる。
 とっさに、優月の頭、おさえてしまう。

「つか、嗅ぐなよ」
「えっなんで?」

「くさいって」
「でも、オレも同じ匂いだってば」

「……それでも、嗅ぐなって。こら」

 ひしっとくっついて来ようとする優月を、今だけはちょっと、離そうと藻掻いていると。優月が、クスクス笑い出した。


「……玲央に、こらって、言われちゃった」


 とか言いながら。
 何だかちょっと、喜んでるように見える。




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