439 / 838
◇「周知」
「夏休み」*優月
しおりを挟む「あ。そうだ。忘れてた」
不意に玲央が、そんな事を言って、オレを見つめた。
「うん?」
忘れてたって何だろ、と、玲央を見つめ返すと。
「夏休みさ。地方のライブハウスを回ってみないかって話になってさ」
「うん」
「地方にも来てほしいって声は、前からあったからさ」
「うんうん」
「色んな地方のライブハウスで歌って、その地方で泊まったり遊んだり」
「わー、楽しそうだね、いいねえ」
うんうん、と聞いていると。
「優月も行けるか?」
「ん? 行けるって??」
「優月も、一緒に」
「……え??」
ぽかん、としてしまう。
だって、ライブって、お仕事みたいなものだよね。
「オレ行ったら、邪魔じゃない?」
「何で?」
今度は玲央の方が、きょとんとした。
「だって、ライブって……遊びに行くわけじゃないでしょ? オレ、フラフラしてたら邪魔じゃない?」
「優月が居て邪魔なんて思う奴居ないと思うけど……」
玲央は、クスクス笑って言うけど。
良いのか分からなくて、返事が出来ないでいると。
すると、玲央がふ、と笑って。
「あのな、この話がどっから始まったかっていうと」
「うん」
「優月と、夏休み、色んな事しようって話したろ? それを勇紀達に話したらさ」
「うん」
「そこから、ライブしながら各地回って、ライブ以外は泊ったり遊んだりしようっていう提案になった訳」
「――――……」
「だから、最初から、優月と遊ぶっていう話から始まってんだよ」
「……そう、なの?」
「だからこれは、優月がOKなら、それでいいって話だから」
玲央の言葉を自分の中で考えて。
ひとめぐり。
「――――……え、じゃあほんとに、良いの?」
「良いのって言うか、一緒に行ってくれないと、困る」
「困る?」
「元が、優月と思い出作ろうっつー話だし」
そこまで言われると。
あ、じゃあほんとにいいんだ、と思えて。
「行く行く。行きたい」
玲央達と、色んな所、回れるとか。めちゃくちゃ嬉しい。
「それってさ、オレさ、そのライブ、見ていいの?」
「当たり前だろ。見ないでどこに居るつもりだよ」
玲央に、笑われてしまった。
……確かに。
「行く。絶対行く」
「OK。皆に伝える」
めちゃくちゃワクワクする。
嬉しいな。早く夏休みにならないかななんて、思っていたら。
ふと微笑んだ玲央の手が、伸びてきて。
オレの頭、くしゃ、と撫でた。一瞬だけ。
「――――……」
目立つの分かってるのかな。
こんな、一瞬撫でる、とか。
素知らぬ顔で、お好み焼き、食べてるけど。
何となく、玲央の事見てると。
「……ちょっと撫でたくなっただけ。でも優月周り気にしてるから。少しな?」
クスクス笑って、玲央が小声で言ってくる。
「嬉しそうだから。優月」
「うん。だって、嬉しいよ。もう。明日から夏休みでも良いなあーて」
玲央がまた、優しい瞳で、オレを見つめてくる。
「……玲央、ありがと。すっごく、楽しみ」
「――――……つか、オレも楽しみだけど」
「ライブも。めちゃくちゃ楽しみ! また皆カッコいいの、見れるんだ」
「Ankh好き?」
「好き」
「そっか」
玲央が、嬉しそうに笑うから。
何だか、余計に、嬉しくなる。
329
お気に入りに追加
5,436
あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる