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◇「周知」

「なんでも」*優月

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 顔つぶされた後、めいっぱい頭くしゃくしゃ撫でられて。

「お前撫でてると、じーちゃんが飼ってた犬を思い出す」
「……希生さん?」
「ん。昔な。ポメラニアン」

「……似てますか?」
「ん。似てる。……何で敬語?」

 クスクス笑われて、とりあえず、乱れた髪の毛を直していると。玲央もクスクス笑ってオレの髪を整えながら。

「昼休みさ。ちょうど見える位置にお前が居たから、何となく目に入ってて」

 そう話し出した。

「……うん?」
「まあ。なんつーか。優月が好かれてるのは、分かったというか」

 苦笑いの玲央。

 ――――……そんなに触られてたっけ、オレ。

 ……まあ。昔から、そう言えば友達との距離は近かったような。言われたこともあるような気もしてくるような。
 でもそんなの、あんまり、気にした事もなかったけど……。

「あ。……それでもしかして、お昼の最後、呼んでくれたの?」

 ん?と玲央がオレを見て。


「それでっていうか――――……あー。でも、そうかも。最後にオレが触りたかったのかもしれない」

 自分の気持ちを確認するかのように、考えながらそんな風に言う玲央に。
 ふ、と笑ってしまう。

 最後にオレが触りたかった、って……。


「……玲央のヤキモチ、可愛いね。 嬉しい」

 可愛い、という表現、多分いまいちなんだろうなと、言ってから思った。
 ちょっと複雑そうな顔をしてから、玲央が少し息をついて。

「嬉しいとか言ってると、その内、大変かもよ?」

 そんな風に言って、少し笑って見せる。

「んー……大変じゃないと思うけど」

 どうなっても大変なんて思う日が来るとは、思えないんだけどな。
 玲央が、ヤキモチ妬いてくれるのは。やっぱり嬉しいと思う。

 オレをじっと見つめた後。
 玲央は、ふ、と笑んだ。

「――――……いつか、優月にヤキモチ妬かせたいな」
「え。……今だってちょっとは嫌な気はすると思うよ? 玲央が誰かにめちゃくちゃ優しくしてたらきっと……」

 言ってる途中に玲央が、ぷ、と笑い出した。

「そんな可愛いのじゃなくてさ。……めちゃくちゃヤキモチ妬いて、優月が怒る、みたいな、嫉妬」
「えー……」

 ……そんな風になるかなあ……?
 

「んー……わざと、嫉妬させないでね?」
「ん? ――――……ああ。わざと? ヤキモチやかすような事?」
「うん」

 心配で見つめてると。
 玲央は、クスクス笑い出して。ちらっと外に視線を流したかと思ったら。

 オレを引き寄せて、ちゅ、と一瞬だけ、キスした。


「――――……しないっつの」


 くしゃくしゃ、と髪の毛また撫でられて。
 玲央が、優しく、瞳を緩める。その瞬間、突然、思ったのは。



「あ、玲央」
「うん?」

「玲央が、今の顔で他の人、見てたら」
「ん?」


「……すごく、妬くかもしれないって…… 今思った」
「――――……」


 数秒前まで、そんな妬く事あるかなと思ったのに。
 玲央の、顔、見てたら。 唐突にそう思って。

 そのまま言葉にしてみたら。
 きょとん、とした顔をして。玲央は自分の顎に触れた。


「……つか、オレ、どんな顔してた?」


 その言葉に玲央と見つめ合って。ふ、と笑ってしまう。


 ――――……そっか、意識、してないで今みたいな顔、してくれてるんだ。

 優しい、顔。可愛いな、とか思ってくれてそうな。愛しそうに、見つめてくれてる、顔。

 自然と、してくれてるんだなと思ったら。
 何だかすごく嬉しくて。


 ……やっぱり、玲央に妬いたって、泣き付くことはないかも。
 目の前に、こんな感じで玲央が居てくれるなら、それでもう、なんでもいいやって、なりそうな気がする。


 ふふ、と笑ってると。ちょっと不思議そうにしてた玲央も、クスクス笑って。


「行くか。……何食べたい? あ、ベルトして、優月」



 そう言いながら、車のエンジンをかけた。





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