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◇「周知」
「嫉妬って」*優月
しおりを挟む玲央がハンドルから顔を起こして、ふ、と息を吐いた。
「ごめんな。心細そうな顔させた。……気を付ける」
よしよし、と撫でられて。
優しい笑顔と言葉に、何だかとっても気持ちが暖かくなる。
……でも。気を付けるって。
気を付けるって、何だろ。
「……とりあえず、飯食って帰るか。優月、何、食べたい?」
言いながら、シートベルトをはめた玲央の腕に触れた。
「?」
玲央がオレをまっすぐ見つめる。
「あのね、玲央」
「ん。なに?」
ふ、と笑んで。頬に触れて、すり、と撫でられる。
「オレさ。ほんとに嫉妬したこととか、考えても、あんまり、なくてさ」
「ん。分かる。――――……オレがした事なかったのとは、なんか違う意味で、無さそう、お前」
クシャクシャ頭を撫でられて。そのまま玲央の手が、オレの手に触れて、指を、きゅ、と握った。
「玲央のと違うかは分かんないけど……オレ、あんまり、人と比べてどうとか……あんま感じないというか……嫉妬ってさ、好きとかだけじゃなくてさ、才能ある人に嫉妬したりとか。色々あると思うけど……」
「ん」
「蒼くんとかって色々すごいし。嫉妬する人も居るんだろうなって分かるんだけど……近くで見てても、すごいなーとしか思わないんだよね。なんか色んな意味でも、あんまり嫉妬とか……そういう感覚が、今まで無くて」
「ん。分かる」
オレの指と、指を絡めて遊びながら、玲央がクスクス笑ってる。
「でもオレ、別に好きじゃないとか、執着してないとかじゃなくて……」
「ん。それも分かってる」
穏やかに言う玲央の手を、きゅ、と握って。
「……だけど、ね?」
ん?と玲央が首を傾げてくる。
「――――……今まで、嫉妬なんてって思ってた玲央が……オレの事で、嫉妬してくれるっていうのは」
「――――……」
「それは、……なんか、すごく、嬉しいよ?」
そう言うと。玲央は、じーっとオレを見て。ちょっと困ったような顔で、笑った。
「んー。……つか、面倒じゃないか? オレは今までは嫉妬されるのとかほんと面倒で……喧嘩にしかなんねえし。――――……だからさっきのとか。優月にも、相手にも、そんな感情全く感じなかったのに、それでも、なんかムカムカするって……なんかオレは、自分が嫌だけど」
「……さっき、玲央、気を付けるって言ったけど……それってどういう意味?」
そう聞いたら、玲央は、しばらく考えてから。
「あほみたいに嫉妬して、優月に心細そうな顔させないように気を付けるって言った」
と言って、苦笑いを浮かべながらオレを見つめる。
やっぱりそう言う意味なんだと確認して、オレは首を横に振った。
「オレは、嫉妬してくれたら、さっきみたいに言ってくれた方が、良い」
「――――……」
「さっきオレが、心配してたのは、玲央が何も言わなかったからだよ? 言ってくれてからは、嬉しいだけだったし」
「……嫌じゃないのか?」
「うん。嫌な訳ない」
「じゃあ分かった。嫉妬したら、即言う」
「……うん」
イタズラっぽく笑う玲央に、ふふ、と笑ってしまうと。
「あー……昼休み」
「え?」
オレの指から手がすり抜けて。玲央の指が頬をつまんだ。
「女にも男にも、触られ過ぎ、お前」
「え?」
「肩組まれたり、顔さわられたり」
「……そんな事してた? 顔??」
「なんか 取ってもらった? 髪の毛とか睫毛とか」
「……あ、睫毛……」
あ、そんな事あったような。あ。見られてたの? ……ていうか。それも、ちょっと嫉妬したっていう話?
玲央をじっと見つめていると。
「オレ、誰かがお前に触るの、嫌なのかも」
玲央が両手でオレの頬を挟んで、めちゃくちゃぶにぶに、潰してくる。
「……っ 変な顔になるよー」
「ふ。かわいー」
「そんなわけないー」
言っても離してくれないで。
楽しそうな玲央に、ひとしきり、ぶにぶにされる。
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