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◇「周知」

「あれ?」*優月

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「また今度ご飯たべようね、優月くん」

 明るくそんな風に言って、春さんは、自分の部屋のドアに鍵を挿しこんでる。

「あ、春さん、まだ日は決まってないんですけど、オレ、引っ越すことになりそうで……」
「え、そうなの? 何で?」
「……一緒に住もうかなって思って」
「へえ? 女の子?とか?」

「あ、いや、じゃなくて――――……」

 オレが、ちら、と隣の玲央を見上げると。

「神月くんと、住むの?」

 不思議そうな顔で、春さんが言う。

 オレが、笑顔で頷くと、ふーん?と言いながらも、春さんも笑顔。
 だったんだけど、まっすぐ向かい合った瞬間、春さんが首を傾げて。

「……つか、なんか、優月くん、熱でもある?」

 ふと伸びてきた手が、額に触れた。
 
「……熱は無いかな。なんかぼーっとしてない? 平気か?」

 言いながら、手はすぐ外れる。

「元気ですよ」

 ちょっと、ぼーっとしてるのは、別の理由、だし。
 少し恥ずかしくなりながら、そう言うと。

「疲れてるなら早く寝なよね」

 言われて、はい、と頷く。


「とりあえずまたね。ほんとに引っ越し決まったら教えてよ」
「はい」

「じゃあね」

 春さんがオレと玲央に視線を投げて、そのまま部屋に入っていく。
 見送ってから、オレは、玲央を見上げた。

「春さんね」
「ん」

「すごく面倒見良い人でさ」
「ん」

「ていうか今のだけでも、面倒見いいの、分かるでしょ?」
「そうだな……行こ、優月」

 玲央に腕を引かれて、歩き始める。


「同じ大学って分かったから余計だと思うんだけど、ほんと良くしてくれて。授業の事とかも色々教えてもらってね。あと、なんか、色々食べ物とか貰ったり……」

 と、春さんの話を、何気なくしていたのだけれど。
 玲央から、ん、しか返ってこない事に、ふと、気づいた。


 ……あれ? ……あれ。これって。 よくなかった……??

 今までならこんな事。絶対気づかなかったのだけれど。


 マンションのエントランスから出て、客用駐車場にとめてあった車に乗り込んで。ちら、と玲央を見つめると。

 ふ、と気付いた玲央がオレを見つめ返す。


「――――……」

 何も言えなくて、ただじっと、見つめ返していると。
 玲央が、何回か瞬きをしてから。手を伸ばしてきて、オレの頭を撫でた。


「――――……優月」


 よしよし、と頭めちゃくちゃ撫でられて。


「ごめん」

 ふ、と笑まれて。ちょっとホッとする。


「優月に仲の良い奴が居ても当たり前……だって分かってるんだけど」

 そのまま、おでこに、玲央の手が触れる。


「……これに、ちょっとムカついただけ」

 あ。さっきの。熱あるかって聞かれた時の……。


「……って言っても、別に本気で嫌だとか、そこまでじゃないよ。何となく。オレのって、思っただけ……つか。言わないですまそうと思ったのに」

 玲央は、はー、とため息を付きながら、オレから手を離して。ハンドルに手をついて、ちょっと突っ伏した。


「すぐバレる、とか――――……かっこ悪……」


 そんな言葉に、思わず。
 ふ、と微笑んでしまった。


「玲央」


 そ、と腕に触れると。突っ伏したまま、ちら、と見られて。


「いつもは触られてなかったよ? 春さん、そんな感じ無いから。さっきは熱計っただけ。心配、しないで」


 きっと、今までの事も、心配してるんだろうなぁと思ってそう言うと。


「……嫉妬なんてする奴、めんどくせーって……」
「え??」


「そう言ってた頃のオレを、ちょっと殴りたい」
「……何それ」


 ふ、と吹き出して。
 クスクス笑ってしまう。





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