429 / 825
◇「周知」
「ずっと」*優月
しおりを挟む玲央の脚の間に引き寄せられて、ぎゅーと抱き締められたまま。
しばらく経過。
「……れお……?」
特に何かされるわけでもなく。
何か言われるわけでもなく。ただ、ぎゅー、と腕の中。
どうしたんだろう、と思うのだけど。
その内、こんな風にきつく抱きしめてくれている事が幸せに思えてきて。
ふふ、と笑ってしまった。
すると、玲央が、オレを抱き締めたままで。
「何、笑ってンの……?」
と、聞いてくる。
優しい、声で、すごくゆっくり。
玲央が後頭部に触れてた手が、オレの頭を、そっと、撫でてくる。
「――――……」
なんか。このまま時間が止まっちゃえばいいのに。
そんな風に思ってしまう。
手を、玲央の背に回して、ぴと、とくっついてみる。
「――――……なんかこうしてると、笑っちゃう」
「……何で?」
「……幸せ、すぎて。かなぁ……なんか笑っちゃう」
「――――……」
そう言ったら、玲央は、またしばらく黙ったまま。
でも、ぎゅ、と余計くっついたような。
ふふ。
……あ。また笑っちゃった。
ていうか、これ。笑っちゃうよね。
玲央にぎゅー、て抱き締められてるとか。
めちゃくちゃ幸せ過ぎて。暖かくて。
「……オレ」
玲央が、一言、そう言った。
「ん……?」
顔を見ようとしたけど。
なんだか阻止されてるような。相変わらず、抱き込まれてて、ぎゅっとされてて、顔は、見れない。
「……うん?」
顔は見るのは諦めて、玲央に、ぴと、とくっついて。
玲央が続きを話してくれるのを待つ。
「――――……」
ずーっと、黙ってる玲央。
でも。髪の毛を撫でてくてる手は、すごく優しいから。ただ、瞳を閉じて、玲央の腕の中に収まっていると。
「――――……すっげー、好き」
なんだか、すごく、ためこむようにしてから、そんな風に、囁かれて。
そのまま、ぎゅー、とまた抱き締め直されて。
言われた瞬間、ぱち、と開いた瞳は。
なんだか瞬き、すごい繰り返して。
一気に顔、熱くなる。
「――――……ヤバいなぁ、これ……」
後頭部に触れてた手が、髪の毛の間にくしゃ、と入ってきて。
そのまま、うなじに滑って。やさしい仕草で顔を上げるように、促される。
オレ今、多分真っ赤、なんだけど。
思って、一瞬、ちょっと力を入れて、下を向いていたけれど。
「……顔見せて」
囁かれて、もう諦めて、その手に従って、上を向く。
「――――……」
見下ろす玲央の顔は。
ほんと綺麗で。なんかすごく真剣な顔してて。
真っ赤って言って笑うかなと思ったのに。
今は言わないみたい。
「――――……ずっと居ろよな」
頬に触れた玲央が、まっすぐオレを見下ろして、そんな風に言う。
何でか、涙が滲む。
それを見た玲央が、ちょっとびっくりした顔をしてから。
ふ、と笑んで。
「可愛すぎ」
囁きながら唇が近づいてきて。触れるだけの優しいキスが、重なった。
「~~~~……っ」
玲央の首に、手をかけて。
ぎゅう、としがみつく。
「大好き、玲央」
そう、言ったら。
玲央はクスクス笑って。オレの背に置かれた大きな手が、オレをまた、ぎゅ、と抱き寄せてくれた。
――――……大好きすぎて。ほんと。
どうしたらいいんだろう。なんて。 そんな事を、本気で思った。
(2022/5/10)
221
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる