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◇「周知」

「初めて」*優月

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 うー……。


 なんか、ぽわんぽわん、というか。
 ――――……よく分からない感覚にずーっと、支配されてるみたい。

 何とか、必要な物を考えて、鞄に詰めてはいるのだけど。
 ……何を忘れてっても、全然不思議じゃない位。なんか、ずーっと、ぼーっとしてる。

 なんかさっき。
 めちゃくちゃ、気持ち良くて。

 ……なんかオレ。
 ――――……そういう事、少し慣れてきたというか。
 恥ずかしいのとか、気持ちいいのとか、今まであんまり感じてこなかった感覚を、玲央と会ってから、ずっと、感じさせられてて。

 その感覚を、何でもない時にまで、急に思い出したり。
 ……うーん……。

 ――――……さっき。玲央が、あそこで「やめてくれた」のは、分かってる。
 それは多分、最後まですると、オレが使い物にならなくなっちゃうから。……分かってるんだけど。


 ……ううー。
 玲央と、最後まで、したいなとか。

 絶対、このポワポワした感覚は、それなんだと思う……。


 まだ足りない。
 ――――……とか。


 ……い、言えない。
 ……………………言える訳ない。


「優月、なんかこれだけは自分のが使いたい、とか、そう言うの無い?」
「……」

「優月?」
「あ、うん。 え? ごめん、何?」

 遠くで聞こえてた声。はっと気づいて、そう言うと、玲央がクスクス笑いながら、オレに近付いてきて、頬をぷに、と摘まんだ。

「ごめんな、なんか優月、ぼー、としてンな?」
「ううん、ごめん、聞いてなくて」

「まあ……オレのせいだろ」

 クスクス笑いながら、頭をよしよしされる。

「オレの家にあるもので用が足りるなら良いんだけど、これだけは自分のが良い、とか。そういうの、無いか?」
「……えーと……」

 これだけは自分のがいい……えーと……絵の道具は持ったし、学校の物も持ったし、あとは、何だろう。

「無いかも、あんまりそういうの」
「無いの?」

「そう言うわれてみると、あんまり、これじゃなきゃっていうものは無いかも」

 これでもいいけど、こっちでもいいし、あっちでもいいし。
 ……みたいな感じかも。

「絵を描く道具は、使いやすい、とかはあるけど……」

 うーん、あったかなあ、他に。
 と、考えていると。視線の先で、玲央がクスっと笑った。

「優月ぽい」
「え?」
「これじゃなきゃ無理、とか。言わなそうだもんな」
「……そう?」
「ん。お前、言わないだろ?」
「……うん。言わないかも」

 玲央が、目の前で、ふ、と笑って、オレの頭をまた撫でる。

「何かそういうのあったら、全部言って良いからな」


 優しい表情で、クスクス笑う玲央。

 言っていいから、かぁ……。

 ――――……別にオレ、我慢して、どっちでもいいって言ってるとか、そんなつもりはないんだけど。でもまあ、玲央もきっとそこまで考えて言ってる訳じゃないと思うけど。


 ――――……でもなんか。
 目の前で優しい顔で微笑んでくれてる玲央を見てたら、ふっと思いついた。


「……オレね、玲央」
「ん? 何かあったか?」

「うん。あの……」
「ん」

 口角をちょっとだけ上げて、瞳を緩めて。
 オレの言葉をじっと待っててくれてる玲央を見上げてると。


「……玲央じゃなきゃ、やだ」
「え?」


「一緒に居てくれるのは……玲央が、良いな」


 なんか。こんな風に、思うの、初めて。
 それだけは譲りたくないな、なんて、こんな風に思うの。

 じっと、見つめてたら。玲央が完全に真顔になって。ちょっと、顔を引いた。


「――――……お前……」

 なんか玲央が複雑な顔をしたと思ったら。
 急に、しゃがみこんでしまって。

「え。……れお???」

 そのまま後ろにおしりをついて、膝を立てて。完全に顔は下で。なんか、頭を抱えるみたいな。

 あれれ。
 ……なんか言ってくれると思ったのに。座られちゃった。


「れお……??」


 嫌だった……わけじゃないよね? と、ちょっぴり不安になりながら、オレもしゃがんで、玲央の顔を見ようとした瞬間。

 腕を取られて、引き寄せられて。ぎゅ、と抱き締められた。

 ――――……きつく抱きしめられてしまったから、顔は。見れない。



「…………不意打ちすぎ」



 はー、と。
 深い深い、ため息が聞こえる。






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