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◇「周知」

「名づけ」*玲央

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 マンションの部屋の鍵を開けて中に入り、玄関に置いてある車のキーを手にする。教科書が入った鞄は玄関に置いて、スマホと携帯だけ持ってから、優月を振り返る。

「もうこのまま行ける?」
「うん。あ。鞄、小さいのにしてくる」

 中に入って行って、小さ目のショルダーバッグを手に戻ってきた。

「お待たせ」
 言いながら、靴を履き終えて立ち上がった優月を引き寄せて、ちゅ、とキスする。すると、優月はいつもどおり、ふわ、と笑う。

 微笑まれると、もっとキスしたくなって。
 唇に触れると、優月の手が背に回る。

 背というか腰の辺りに、少し捕まるみたいにくっついてくる。
 それがいつも、この上なく、可愛い、と感じる。

「玲央……」

 キスが離れると、名を呼ばれる。
 なんか、優月に呼ばれると、嬉しい。

「優月」
 頬に触れて、ちゅ、と額にキスをする。


「――――……好きだ、優月」
「――――…………」


 優月は、でっかい目で、まじまじと見上げてくる。パチパチと瞬きをしている。しばらくそのままで。それから、ふわふわと笑んだ。


「……この世で一番カッコいい、好きだ、だと思っちゃった」

 なんて言われて、ものすごく可愛く思えて、笑ってしまう。


「優月の荷物、取りに行こ」
「うん」
「――――……オレんちで暮らせるように、な」
「うん」

 またにっこり笑って、優月がオレを見つめる。


「……よし、行くか」
「うん」

 ドアを開けて優月を外に出してから鍵をかける。エレベーターで地下の駐車場に降りた。

 車に乗って、シートベルトをして、走り出した所で、優月が「あ」と呟いてスマホを取り出した。

「電話?」
「うん。出ていい?」
「いいよ」

 そう言いながら、かけていた音楽のボリュームを落とすと、「もしもし?」と優月が電話に出た。

一樹いつき? うん? ……うん。ん……」

 しばらく、相槌だけを続けて、優月が、話を聞いている。


「ん――――……樹里じゅりは? なんて言ってる?」

 ん、だけでずっと話を聞いてるみたいで。信号で止まった時に、ちら、と優月に視線を向けると、気づいた優月が、ごめんね、と声にせずに謝ってくる。
 笑んで見せて、首を横に振る。

 何も言葉を入れず、ん、とずっと聞いてあげてる優月の話し方が可愛いので、全然良い。なんて、思う。
 
 車を走らせながら、「ん、じゃあね」と声がして、優月が電話を終わらせた。

「ごめんね、長くて」
「ん」

「双子が、喧嘩したみたいで。弟の方からだった」

 クスクス笑って、優月が言う。

「あぁ。そうなんだ。もう平気なのか?」
「うん。ちょっと電話するのも久しぶりだったし、オレに言いたいだけだから……多分後でもう一人からも電話来るかも」

「――――……双子の名前、そういえば、聞いてなかったかも」

 あ、そうだったけ?と優月が笑って。

「弟が、一に樹木の樹で『一樹』、妹が、樹に里で『樹里』だよ」
「いつきと、じゅり?」
「うん」

「良い名前だな」
「ほんと?」

 嬉しそうな顔で、優月がオレを見つめる。

「ん?」
「オレがつけたの」

「そうなのか?」
「うん。母さんが持ってた姓名判断の本見て、すごい考えた」

「優月が名付け親なのか」
「そーなんだよねー」

 ふふ、と嬉しそうな笑顔に、こっちまで笑みが浮かんでしまう。





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