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◇「周知」

「最初から」*玲央

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 優月と渋々別れて……。渋々というのは、オレの内心だけで、優月はあとでねーと、明るい笑顔で離れて行ったけれど。

 で、教室に入ると、稔が待ってた。
 ……授業かぶってんの多い。

「玲央さん、おかえりなさい」

 そんな変なセリフでオレを迎える。
 離れた所に座ろう。稔と席を空けようとすると。「嘘嘘、こっち座れよー」と笑いながら騒ぐので、仕方なく稔の横に座ると。


「つか、いちゃいちゃしてきたの?」
「――――……少しな」

「ほんとに少しかー?」
「何だよ」

「玲央の事だから、最後までちゃちゃっと済ませてきちゃったんじゃないの」
「ある訳ないだろ。アホか」

「……いや、ありえる」

 うんうん、とアホみたいに頷いている稔に、首を振る。


「んな事して、そんな顔させたまま、授業に行かせる訳ないだろ」

 オレの言葉に、ぴた、と固まって。
 稔は、はー、とため息。


「そうだった。超過保護の超甘やかしだった……」
「……なんだ、それ」

「玲央の優月への態度」

 稔が可笑しそうに笑って、オレに視線を向ける。

「優月は、甘々の玲央しか知らないんだよな?」
「……んー……」

「あれっ? いつ会ったの? そういえば」
「――――……」

「優月とどこで会ったんだっけ? 最初から可愛いって思った?」
「……優月が可愛がってる黒猫を、オレが抱いてた」

「――――……んん???」

「疲れてベンチで一休みしてたところに、黒猫が来て抱いてたら……優月がエサをあげに来て」
「……うん。で?」

「――――……」

 すでに怪訝そうな顔をしているので、言うのに躊躇いを感じるが。


「……そん時、誘った」

「何に誘ったの?」
「――――……寝てみないかって」
「ん?」

「オレと寝てみない?って」
「はい?? え? いきなり? 脈絡なく?」


「あーと。……キスしていいか聞いて、キスした」
「……はあーー??」

「キスして、それが良くて、オレと寝てみないかって、聞いた」


 まあそうなるだろうと思ったけれど、稔はめちゃくちゃ嫌そうな顔をして、無言。

「嘘だろ? それで、優月、それに乗ったの?」
「……まあ。結果的には、そうだな」

「意味が分からん」

 稔が珍しくふざけず、真剣な顔で見つめてくる。
 どうやらおちゃらける気すらしないくらい、理解不能に陥ってるらしい。


「――――……」

 しばらく稔がオレを見たまま固まってるが。
 無視して、とりあえず、ノートやシャーペンを取り出す。

「……ああ。分かった」

 稔が、ようやく声を出して、オレを見たので、「何が?」と聞いたら。



「どっちも、一目惚れっつー事か」


 そう言われて。
 じっと、見つめ返してしまう。


 ――――……この話聞いて、その結論になる。


 うるさいし、いつも騒がしいし。
 遠慮なく絡むし、からかうし。めんどくせーんだけど。


 ……まあ。多分。こんな風に一緒に居るのは。
 こいつのこーいうとこ、かもなぁ……。


 と、眺めてしまう。


「え? 何、違うの? それなら、今までの流れも、納得してやるけど?」

 そんな風に言ってオレを見つめ返してくるので。



「――――……まあ、遠くはないかな」


 そう答えたら。

 稔は、ふーん……とゆっくりした口調で言って、クスクス笑った。


 


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