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◇「周知」

「初」*玲央

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「もうすぐ朝食来るから、起きる?」
「うん」

 オレが言うと、もぞもぞ優月が起き上がった。

 そういやラブホ来て、ベッドでしないとか初かも。まあバスルームではしたけど、でも、ラブホのベッドでただ寝ただけって。と今更な事に気付いた。

「顔、洗ってくるね」

 優月が言いながら、歩いて行く後ろ姿を見ながら、ベッドに起き上がって、少し考える。

 何で初なんだっけ、と一瞬思って、すぐ納得。
 ああ。ヤるためにラブホなんだから、しない訳ねえか。

 ……優月とはずっと居るから、ここでしなくてもいいって思ってるのか。
 まあそもそも泊って一緒にいるっつーのも、あんま無かったし。

 優月は、誰かと付き合って、する事全部初めてかもしんねーけど。
 オレはオレで、こんな風に、密着して誰かと付き合うのは初めてで。こんなに好きだとか、可愛いとか、ずっと思うのも初めてて。
 だから、感じる事も。してる事も、結構初めてだと思う事が多い。

 優月は、オレが全部慣れてるって思ってるんだろうけど。
 ――――……実は慣れてないことの方が多いのかも。

 そうなると、まっすぐで素直で、全部そのまま受け取る優月の方が、初の事に対処するのはうまい気がする。

 昨日、優月に腕を組まれた時にドキッとしてびっくりした感覚が、まだなんか残ってるし。……こういうの、カッコ悪いと思うんだけど……何だかな。

 そんなに嫌じゃないというか。
 オレでもこんな風に思えるんだと、そう感じるというか。

「れおー」

 戻ってきた優月がベッドに乗って、むぎゅ、と抱き付いてきた。

「どーしたの? だるい?」

 無邪気な顔で、のぞき込んでくる。
 こういうのが可愛いって思う自分の思考も、やっぱり、優月が初で。
 

「――――……だるくないよ。ちょっと考えてた」
「何を?」


「……昨日ベッドでしなかったなーと思って」

 少しからかい含めて言って、抱き付いてる優月を至近距離で見つめると。

「――――……」

 優月が、瞬きをパチパチ繰り返してる。
 ぷ、と笑ってしまう。笑ってるオレに、少し赤くなって、優月が言う事に。

「オレ、も、ちょっと思ったんだけど」
「んー? 何を?」

「ベッドで、しなくていいのかなって、ちらっと……」
「そうなのか?」

 意外。

「でも遅かったし、玲央朝から運転だねって話してたら、玲央が寝よっかって言ったから」
「うん。……あぁ、言った」

「あ、しないで寝る事もあるんだなって」
「ラブホ来てんのにな?」

「……お風呂でしたからいいのかなっても思って」
「うん」

 まあ確かに。あれで結構満足してたな。
 なんか恥ずかしそうに話してるのが可愛くて、頬や髪に触れながら話を聞いていると。

「だからすぐ寝る準備しちゃったんだけど……ほんとは、ちょっとは思ってた」

 そうなんだ。……ほんと、意外。
 オレから、しようって仕掛けるだけじゃなくて、優月がそっち方面、思う事があるんだと思うと。なんか嬉しいけど。


「してもよかった?」

 試しにそう聞いてみると。

「え。 あ、うん」

 と、すぐ頷く。

「――――……優月、お風呂でもう疲れてなかった?」
「疲れて……? んー…… でも、玲央とするの、好き」

「――――……」

「嫌な時なんて、無いよ?」



 ――――……誘ってる??

 思わず抱き締めて、組み敷こうかと思った瞬間。
 チャイムが鳴った。優月がぱっと笑顔になって、膝立ちになった。

「あ。来たね。受け取ればいい?」

 何だか、内心ものすごく、がっくりしながら。
 可笑しくなってきて、苦笑い。

「受け取らなくても、ドアを開けて、置いて行ってくれるから」
「そうなの?」
「ん。顔見ないように」
「そうなんだ……だからドアから中が見えなくなってるんだ?」
「ん」

 優月が耳を澄ましている。
 鍵が開いて、朝食ですと声がかかり、少しして、また鍵のかかる音。

「持ってきていい?」
「いいよ。頼んでいいか? 顔洗ってくる」
「うん、用意しとくね」

 楽しそうに立ち上がって、ドアの方に小走り。


 ――――……ちょっと襲いかけたのに。
 苦笑いとともに、洗面所に向かった。


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