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◇「周知」
「楽しみ」*玲央
しおりを挟むバレるのが早くて、ウケたって……。
すげー楽しそうに、蒼さんが笑ってるのが聞こえる。
優月が苦笑しながらオレを見上げるので、ふ、と笑ってしまうと。
『玲央は?』
その言葉に、優月がオレにスマホを向けてくる。受け取って、「こんばんは」と、話し出す。
『ああ、玲央……つか、希生さんが、玲央のじいちゃんだったとはなー。さすがにちょっとびっくりしたけど』
笑いを含んでる声。
「オレも、びっくりしました。優月の教室に行ったら、じいちゃんに後ろから叩かれて」
『ああそうなんだ。……びっくりしたけど、言われてみれば、なんか似てるよな。なんか、納得した』
面白そうに笑う蒼さん。
「似てますか?」
『似てる。雰囲気っつーか。……なんか、そうだって思ったら、話し方も少し似てるような気もしてきたし』
クスクス笑いながらそんな事を言ってて。
それを聞いた優月が吹き出しそうになったみたいで、口元押さえて、それからニコニコしてる。
そんな優月の頬に、むに、と触れると、優月がオレを見上げて、ふふと笑う。
『あー、まあいいや。デートしてるとは聞いたんだけどさ、どーしてもツッコミたくてさ。希生さんの孫だったって事と――――…… 何で速攻バレてんだっつー事にさ。ほんと面白いな?』
可笑しそうに笑われて、もう、優月と2人で顔を見合わせて苦笑い。
「あ」
と優月が言うので、スマホを優月に戻すと。
「蒼くん、個展、無事終わった?」
『ああ、無事終わった。ありがとな、優月』
「ううん。お給料、受け取ったからね。ありがとう、蒼くん」
『ああ。さっき父さんに渡したって聞いた。そんじゃな、2人とも。ドライブなんだろ。気を付けてな』
「うん。またね」
「さよなら」
――――……電話、終了。
「――――……」
何となく2人で無言で、顔を見合わせて。
クスクス笑ってしまう。
「なんか、言いたい事だけ言って、速攻切ったって感じ……」
そんな風に言いながら、優月はスマホをポケットにしまった。
「……あっという間にバレててウケた、だって」
優月がまた思い出したみたいで、ふふ、と笑う。
「――――……まあそうだよな。言われてもしょうがねえよな」
「すっごい、笑われちゃったね?」
「そーだな……」
ふ、と笑ってから、優月がオレの手に触れる。
「玲央、車、戻ろ?」
「ああ」
触れてきた優月の手と繋いで、歩き出す。
「なんか、誰も居ない海って」
「ん」
「気持ち良いねー……オレ、夜来るの、初めてかもしれない」
「そっか」
「そもそもあんまり海って来なくて。うちの家族って、山でキャンプの方が多かったから」
「キャンプ?」
「うん。キャンプ。だから海より川の方が良く遊んでた」
「へえ……キャンプか」
「玲央は、キャンプする?」
「キャンプはねえかも。海外連れてかれて、海に居たような」
「なんか玲央っぽいね」
「お前は? 海外行く?」
「うち母さんが飛行機嫌いだから、なんか一度も行った事ない。というか、北海道も行った事ないんだよね。だから、大学生になったら、いっぱい旅行しようって思ってたんだけど」
「だけど?」
「そういえば去年はそんなに行かないで終わった」
あはは、と優月が笑う。
「そんなにって事は行ったのか?」
「それが、飛行機結局乗ってなくて、近くの温泉地とか。そういうのばっかり」
何でだろ、そういうのの為にもバイトしてたんだけどなー、と笑ってる優月。
「――――……今年さ」
「うん?」
「キャンプとか、海とか、北海道とか……いろんなとこ、行く?」
「え。あ、うん、行く行く」
何だか顔をキラキラさせながら、オレを見上げてくる。
「さっきさ、夏に色んな事しようなって言ったけど…… なんか色々してたら忙しくなりそうだな?」
「うん。楽しみー」
手を繋いだまま、ホクホク楽しそうな顔をしてるのを何となく見下ろして。
自然と微笑んでしまう。
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