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◇「周知」

「変な気分?」*優月

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 ほんとに5秒くらい抱き締められて。
 顔を上げさせられて、じっと至近距離から見つめられる。


「……何。寂しいの? ちょっと離れてるから?」
「…………」

 クスクス笑われて一瞬頷くのどうしようと思うのだけれど。
 ものすごく優しい瞳が目の前にあるので、自然と頷いてしまう。

 すると、笑んだ唇に、ちゅ、とキスされた。

 オレの頭を撫でてから、玲央は体を運転席に戻した。


「――――……」

 あーなんか。
 体も気持ちも、ホカホカしてしまった感覚が……。

 一瞬でふんわりとめちゃくちゃ満たされた自分に、現金すぎてちょっと呆れていると。
 ハンドブレーキを外してから、玲央が、オレの手を取った。


「しばらくまっすぐだから手、つなご」

 玲央はそう言って、オレの手を握る。

 わー……。
 こんなこと、普通にする人、ほんとに居るんだ……。

 ていうのが、ぱっと思った感想。

 こんな風にカッコよく出来る人は。
 そんなに居ないんじゃないかなと思ってしまうんだけど。


「いっつも触ってるもんな、オレ。――――……確かにこの距離に居て、触らないとかいつもは無いかもな」

 玲央、クスクス笑ってそう言って。
 信号が青になると、走りだす。

 つないでる親指で、オレの手をスリスリしてくれてて。

「――――……玲央」
「ん?」


「……すごく、大好き、玲央」
「――――……」

 感情極まって、ついつい漏れた言葉に。
 くす、と笑って、玲央がオレの手をぎゅと握る。


「……今、何も出来ないから、後で言って」

 なんて言って、玲央が笑う。

「……うん」

 何も出来ないから、とか。ちょっと恥ずかしいんだけど。
 意味は、分かったから、頷いて。

 オレは、隣の、普段はあまり見慣れない玲央の。
 ひたすらかっこいい、横顔を見つめた。
 
 直接まっすぐ見詰め続けるのはさすがにちょっとなーと思うので、
 何となく、運転席の前方を見るような感じにはしたけど。


 ……見てるの、絶対バレてるよなあ。
 なんて思いながら。 触れてる指が愛おしくて。すりすりと、触れていると。


「なんか、あんまり手に、サワサワ触られてるとさあ」
「うん。あ、くすぐったい?」

「なんか変な気分になる」

 しばらく、ぽかん、として。

「――――……え」

 変な気分?て?
 それってどういう……。
 
 固まっていると、玲央が信号で止まって、オレを見つめて。
 ぷ、と吹き出した。

「そういう気分に、なるなーって。さわさわさわさわ、ずーと撫でられてると」
「――――……っ」

 やっぱり、そう言う意味なんだ、と思った瞬間。顔が発火。

 もう、火が出そう。
 何なんだ、もう、玲央……。

 思わず、手を引いてしまおうとしたら。
 きゅ、と握られた。

「ああ、うそうそ。そのまま触ってて」

 クスクス笑われるけど。
 そんな風に言われて、同じように触ってられる訳、ない……。

 動けずいると、玲央の手が、絡んできた。


「――――……ほんと、かわいーな、優月」

 そんな風に笑み交じりに言ってる玲央を、ちら、と見つめる。


 手、触ってる位で、玲央がそんな気になったりするのかなって思うと。
 多分絶対、からかわれてるんだろうな、とは、思う。

 もう言われた時は、フルで慌ててしまうけど。
 ――――……玲央はいっつも余裕があって。いいなあ、なんて思うし。

 可愛いとか。
 よく、こんな風に、カッコよく、さらさらっと、言えるなあとも思う。

 オレもし、女の子と付き合ってたら、言えたかなあ……。
 無理かな。まず片手運転が出来る気がしない。

 運転に慣れたら出来る……?
 ……んー、無理だな、うん。
 ていうか、玲央だから、カッコいいんだよなー……。

 むー。
 ちょっとカッコ良すぎて、何でだろって思ってしまう。

 ――――……何でオレ、こんな、全然普通レベルを遥かに超えちゃってる人と、一緒に居るんだろうか。



 なんて、思いながら。
 ――――……でも繋いでる手が暖かすぎて。


 微笑んでしまう。







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