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◇「周知」

「バレそう」*優月

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「玲央はこの写真が欲しかったのか?」

 空の写真を見つめながら、希生さんがそう言うと。


「別に。それじゃなくても……いつか、良いの買うから良い」

「何か知らないが、蒼に対抗するってきつくないか?」
「……うるせーな」

 ……あ。玲央。なんか拗ねた。
 ――――……ちょっと可愛い。


「……優月、もうそろそろ行く?」


 オレを振り返って、そんな風に言ってくる。

 密かに玲央の事が愛しくなりまくって、ドキドキしていると。
 その横で、希生さんはふ、と息を付いて。


「じゃあお前が、これが欲しいってなったら――――……譲ってもいいぞ」
「――――……」

 希生さんの言葉に、玲央はちょっと驚いたみたいに希生さんを振り返って。
 
「……いーよ、気に入ったから買ったんだろ。オレ、それが絶対欲しいって訳じゃなかったし。飾れるようになった時に一番好きな奴、買うし……」

 と玲央。

「それならいいが。まあ、声だけは掛けろってことだな」
「――――……分かったけど。覚えてたら」


 そんなやりとりを黙って聞いていたら、久先生と目が合って。
 ふ、と微笑み合ってしまう。


 なんか……素直じゃないなー。この2人。
 ――――……お互いに、だと、そうなっちゃうのかなあ。

 ありがとって、玲央、言えばいいのに。

 そんな風に思いながら、玲央を見て、くす、と笑ってしまうと。
 玲央はオレを見て。

 ちょっと、膨れた。


 あ、やっぱり可愛い。
 ――――……希生さんには、こんな感じになっちゃうのかー。


「……つか、そーいや、じーちゃん、なんで蒼さんの事、呼び捨て? 仲いい?」

 玲央がそう聞くと、久先生が頷いた。

「蒼が産まれた頃から何度も会ってるし。一緒に旅行した事も何回かあるよね」

 久先生の言葉に、希生さんが笑って頷く。

「子供の蒼くんとですか?」

 オレが聞くと、ん、と久先生。

「高校生とかかな。うちの奥さんが亡くなって、しばらくしてから」


 ――――……あ、そうだ。
 先生の奥さん、蒼くんのお母さんは、蒼くんが中学の頃に病気で亡くなったって。だから、オレは、会えてない。


 オレが会った時の蒼くんはもう元気だったし。 
 ――――……その事を知ったのも、ずいぶん後だったけど。



「まあしばらく会ってなかったから、個展で久しぶりに会ったけど」

 そう言った後、希生さんは、ふと玲央を見上げた。


「玲央はどこで蒼と知り会ったんだ?」
「あぁ。こないだ、優月がオレのライブの二次会――――……」

「あ」
 咄嗟に声が出てしまった。

 皆がすぐに、ん?とオレを振り返る。

 だって、その話してると、希生さんにも、きっと分かっちゃう……。
 さっきそれで久先生にバレたし。


「どした? 優月」

 希生さんの近くに居た玲央が、ふ、と笑みながらこっちに来る。


「あ、の……」
「ん?」


 優しい瞳を見つめ返しながら、何て言えば、と困っていると。


「もうこんな時間だね」

 と、久先生が言った。
 多分。
 ……いや、絶対。助けてくれたに違いない。


「そろそろ飲みに行こうよ、希生」
「ああ。……そうだな。そうするか」

 希生さんもそう言いながら、オレと玲央を見て。

「これから、どこか行くのか?」
「ああ。オレらは――――……とりあえず、ドライブ」
「ドライブ?」
「そう。な?」

 優しく微笑んでくれる玲央に、オレはうんうん、と頷いた。


 もう。
 希生さんには、どうしても意地張るみたいなのに。

 オレに向ける玲央の顔は。
 ……希生さんの前に居ても、めちゃくちゃ優しい。

 それは、嬉しいんだけど。

 ……バレちゃう気がして。

 ――――……玲央、今日言ってたもんね、玲央の家族にバレるのは、もうしばらく後が良いって。

 そうだよ、もう、今日聞いたばっかりなのに。



「あ、オレ、カーテン閉めますね」

 見つめあってると変かなと思って、オレは、部屋のカーテンを閉めに歩き出した。



 近くに居ると、玲央と、オレの顔でバレそう。 








(2021/1/7)

番外編は、この章の一個上にまとめて置きました(*'ω'*)
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