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◇「周知」

「絵画教室」*優月

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 電車を降りて、教室まで歩く。通い慣れた道。
 時計を見て、玲央はまだ授業中だなあ、と思い浮かべる。


 奏人くんと話した事を、電車の中でずーっと、思い返していたけど。

 ――――……何か多分。玲央がオレを好きな理由が分からな過ぎて、もう疲れたから、もういいやってなった、のかな?なんて、思うと。
 
 ちょっとどうなんだろう、なんかごめんねと思いながらも。

 最後、もういいやって言った時は、ちょっと清々しい顔、してて。
 奏人くんは、少し、吹っ切ったかも……しれない、なんて思う。

 こないだのライブのままだったら、きっと、辛いのが続きそうだから。
 ……なんか、意味不明すぎて疲れてでも、少し前を向いたなら。奏人くんにとって良かったのかな……とか、オレがこんな事を思ってるとか、きっとまた、怒られると思うけど……。

 
 今までは玲央が好きすぎて、自分の気持ちを出さずにきたんだろうけど。

 ――――……こうなって、好きと言い切るの、すごく強くて。
 ちょっとカッコいい気がする。


 ほんと整った顔してて。
 ――――……近くで結構長らく見たら、もうなんか、奏人くんの絵も描きたいなあと、思っちゃうほど。
 これも言ったら、怒られちゃいそう……。
 でもなんか、少し、怒られるのも、ちょっと、楽しい。ような、不思議な気分。



 ……あの顔が……というか、他にも綺麗な人達が、玲央の周りにいた訳で。
 さて。……何で玲央が、オレを可愛いというのかは、やっぱり謎すぎるんだけど。


 まあ、いっか……可愛いって言ってくれるから、それで。


 玲央がオレと居たいって言ってくれる限り。
 ――――……ていうか、玲央がずっと居たいって言ってくれるといいな。
 このまま、ずっと、居れたらいいな。


 そう思いながら、足早に歩いて、教室の前にたどり着いた。


「こんにちはー」


 中に入ると、久先生と、何人かの生徒さんが絵を描いてる。まだ早い時間なので、子供も居る。


「あ! 優月くんー!!」

 沢木 勝さわき まさるくん。早い時間にオレが来れた時に会えると、良く絡んでくれる男の子。小学3年生。近所の子らしくて、お母さんとは来ずに1人で来てる。

 通いたての頃はお母さんと来てて、何回か後に1人で来始めたんだけど、少し心細そうにしてたので、話しかけて、一緒に描くようにしてたら。
 すっかり、懐いてくれた。

「勝くん、こんにちは」

 抱き付かれて、クスクス笑ってしまう。


「一緒に描こうー」
「うん。良いよ」

 今日の題材は、鮮やかな青いワインボトルと、綺麗な花束。
 一生懸命描いたっぽい、勝くんの絵が、すごく可愛い。


「上手。勝くん」
「どこが?」

 勝くんはいっつも、そう聞く。
 全体的に上手、じゃなくて、ここが良い、ここが好き、て、言ってあげると、すごく喜ぶ。

 上手になりそうだよなあ、この子。

 ほんと、熱心。
 オレに抱きついてくる時は、子供っぽい笑顔なのに、絵に向かう時は、眼差しが真剣。


「優月」

 久先生が、手招きと小さな声でオレを呼んだ。


「勝くん、ちょっと待ってて?」
「うん」


 立ち上がって、そう言うと、にっこり笑う。
 ふふ、可愛いんだけど。ほんと。


 絵を描いてるのを遮らないように、一番遠回りで先生の所に向かう途中で。
 

 先生の近くに1人、座ってるけど、絵は描いてないみたい。生徒さんじゃなさそう。

 ――――……あれ。
 どこかで会ったような……。


 ふっと思い出した。

 あ、こないだ、蒼くんの個展に来てた、先生のお友達の人だ。

 蒼くんが呼んでたのは――――……。
 きおさん、て言ってた気がする。


「こんにちは」

 顔を見て、挨拶をしたら。

「覚えてるんだね」

 くす、と笑われる。

「はい。久先生と、蒼くんの個展で……」
「希望に生きるって書いて――――……きお、って呼ばれてるよ」
「呼ばれてるだけで、ほんとは読み方違うけどね」

 久先生が笑う。

「きお、の方がカッコイイからね」
「君はほんと、一体いつまでカッコいいを目指すかな」

 呆れたように先生が笑うけど。
 なんだか、楽しそうなやり取り。



「希生さん、て呼んでいいんですか?」

「うん、いいよ」



 ふ、と笑われて。思わず、自然と笑んでしまう。






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