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◇「恋人」

「チョコの話なんて」*優月

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 4限が終わった。

「じゃあ、また明日ねー」

 授業の道具を手早く片付けて立ち上がり、皆に別れを告げて、教室を出た。階段を下り、校舎を出る。何人か途中で友達に会いながら、挨拶だけして通り過ぎる。


 別に絵の教室は、何時からと決まってる訳じゃないし、急ぐ必要はないんだけど。いつもは、ただ早く絵を描きたいから急いでいってたけど、今日は少し違う。

 なるべく早く着いて、描きたいだけ描いて、早く玲央の所に行きたいから。

 玲央の所に行きたいからって、描き終わらないで帰るのは違うと思うし。
 なるべく早く、 描き始めたい。 


 そう思って、何となく帰りに見る習慣がついている、掲示板の前に向かって階段を駆け下りていく。
 この掲示板に貼られるものは、大学のサイトにも載るんだけど、少し後だったり、たまに漏れたりするから、なんとなく、ここを見るのが習慣。

 まあ急に、休講になったとかなら、クロの所に行っても良いし、図書館とかで本を読んでもいいし。だからあんまり当日の朝にサイトをチェックする事もしていない。

 とりあえず明日の休講とかの予定は無し。
 それ以外の連絡もなし。 よし、行こ。

 そう思った時、後ろから声がかかった。

「あ、優月ー」
「あ、美咲」

「今から絵?」
「うん」

 笑顔で答えると、美咲も、「ほんと、楽しそうだよねえ」と、ふ、と笑う。

「いってらっしゃい」
「うん、またね?」

 そう言って、歩き出そうとしたら。

「あ、優月、チョコ食べた?」
「……っ」

 その言葉に、一瞬で、ドキ、と胸が、弾んだどころじゃない。
 もう破裂?気味。

 ドクドク、しだした。


「あ、た、べた……」

 というか。
 食べさせられた……けど味わかんなかった……。

 わー、バカバカ、オレ、思い出すなー!

「美味しかったでしょ?」
「うん」

 うんうん、とめっちゃ頷いて見せる。
 美咲はクスクス笑いながら。

「どれが好きだった?」

 そう聞いてくる。


 味。甘いってことしか、分かんなかった……。
 味比べなんて、出来る筈が……。


「……まだ、残ってる」

 うん、1個、食べてない。
 2個は……食べたけど……。食べた…………。っていうのかな、あれ。


 わー、思い出しちゃダメだってば。
 もう無理だ。顔、少し、熱い。

 美咲に変に思われないように。辛うじて、返事はしてるけど。
 なんか、気が遠くなりそうな気持ちになってきた。

 さっきのキス、思い出しそうで。

「なんか、優月顔赤い。大丈夫?」
「あ、…うん、あの――――……」


「あ、急いでたよね、走ってた?」

 ……美咲、ありがとう。
 そっちで取ってくれて。

「う、ん」
「ごめん、呼び止めて。またね!」

 美咲が笑顔でバイバイ、と言う。
 オレは、またね、と告げて、美咲に背を向けて、急ぎ足で歩き始めた。


 うわーん、もうー、玲央のバカ―!
 チョコの話、美咲と、出来ないよう……!!

 顔を手の甲で、少し擦って。

 熱いし……っ。ともう、誰にも話しかけられないように、少し俯き加減で、構内を進み、車道に出た。






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