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◇「恋人」
「オレと優月」*玲央
しおりを挟む優月と別れて、3限の授業に少し遅れてついた。
座ってすぐ、隣の史彦に、言われた。
もう授業は始まっていたので、すごい小声で。
「なあ、玲央最近さー」
「ああ?」
「すげータイプが違う子と一緒に居ない? 誰あれ」
「――――……」
なんか最近、同じような聞き出しの会話が、すげえ多い気がする。
史彦もエスカレーターで一緒なので、まあ、オレがずっと仲良くしてたタイプを知ってる、と言えば知ってはいる。
「同じ学部じゃないよな? 去年見た事ねえし」
「……いつ見た奴のこと?」
また優月の事かなーと思いながらも一応確認。
「ついさっき、学食で一緒に居たよな?」
「ああ……」
優月だな。
……なんか可笑しくなるな。
「なあ、文彦」
「ん?」
「あいつと居るの、そんなに目立つか? ……そこまで目立つタイプじゃねえと思うんだけど、なんか、よく聞かれるんだよな」
何で皆揃って、聞いてくるんだ?
と思って、聞いてみると。
「むこうはそんな目立たないけど、お前が目立つからさー。まずオレは何となく玲央を見つける訳。そしたら、なんか今まで玲央と居なかったよなーっていうタイプとしゃべっててさ。まあそれだけなら別に見ねえんだけど」
「……」
「お前がそいつに向かって笑ってるから、余計、は?と思うって感じ?」
「――――……」
「先週もどっかで、話してるとこ見かけたけど……どっちかっつーと、お前が目立つんだけど」
ぷ、と笑われて。
「何であんな楽しそうなの? あいつ、お気に入り?」
そんな風に聞かれて。
「――――……オレ、別にいつもだって笑うよな?」
「笑うけど……なんか違う――――…… ああ、分かった。これが他の奴ならさ、可愛がってんのかなーって感じ? でも、お前、そーいうタイプじゃねえし」
聞いていたら、マジでおかしくなってきて。
あぁ、なんか、ほんとオレへの周りのイメージって、同じだな。
まあ実際――――……そうだったんだけどな……。
「――――……すげえ可愛がってンだよ」
「……え゛」
ものすごいびっくりした顔をして、史彦が、思い切りオレをガン見。
「前見ろよ」
ふ、と苦笑いしながらそう言うと。
「え。だって――――……今なんて言った?」
絶対ぇ聞こえたくせに、聞いてくる。
可笑しくて、口元隠して、苦笑しながら。
「だから、あいつ、すげー可愛がってるとこ」
「――――……」
「多分ずっとそうだと思うから。覚えとけよ」
「……ちょっ、と待って、玲央。…………幻聴??」
「は?」
なんだよ、幻聴って。
「……可愛がってんの? 玲央」
「だからそうだって」
「……マジで?」
「マジで。しつけーな、お前」
「……新しいセフレって事? にしても可愛がってるとか、玲央が言うの、初めて聞いた。びっくりしすぎて、オレの脳みそが拒否ってんだけど」
「……セフレ、もう居ねえよ。全員別れたから」
「え?――――……ああ、ごめん……授業終わったら、聞く。なんかそろそろ叫びそうだから、オレ」
なんだか小刻みに首を振って、史彦は、オレから視線を逸らした。
苦笑いしか浮かばねえけど。
……叫ぶのか。
ああそーいえば、稔も叫んでたな。
……ていうか、いまだ勇紀達も叫ぶし。
あれか。オレと近ければ近いほど、こういう反応になんのかも。
なんか、もう、一斉のお知らせかなんかで、全員に告知したい気分になってきたな。質問はメールで、みたいなのが楽かも。
――――……優月のほうは、どうなんだろ。
オレと、とか、そんな報告をしたら。
……さっきの食堂。オレが、優月と一緒に猫の所に行くっていうだけで、優月の周り、不思議そうだったからな。
さっき、オレは、優月を好きだからみたいな事は言ったけど、あそこから、そういう意味でオレが優月と付き合ってるって事にはならねえだろうけど。
――――……もしほんとに、優月がそこで認めたら。
つか。
今頃さっきの問い詰められてて、もしかしたら認めてるかも?
そしたら今頃、優月の教室、大騒ぎになってんじゃねーかな。
あとで会えたら聞かねーと。
なんか、「男同士」って事よりも。
「オレみたい」なのと、「優月みたい」のが、って事が。
驚かれるのかもな、と思いつつ。
授業に神経を向けることにするが。
結局すぐに、今頃どうしてんのかなと、優月の事が気になって仕方がなかった。
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