293 / 825
◇「恋人」
「いつか」*優月
しおりを挟む「あ」
咄嗟に声のした方を振り返ると。甲斐と颯也の2人はオレを見て、固まる。
「……何泣いてんの?」
「ほんと良く泣くな、優月」
苦笑いで颯也と甲斐に言われて、手の甲で滲んだ涙を拭いた。
「もう返せ」
少し勇紀から離れたオレは、玲央に腕を引かれる。
「何で泣くかな……」
クスクス笑いながら、玲央の指が目尻に触れる。
「はいはい、入り口でいちゃつくなー」
甲斐が笑って、声を押さえながらオレ達に言う。
「席とった?」
颯也の言葉に、「まだ取ってない」と勇紀。
「鞄置いてくる」
颯也が言って歩き出した時。甲斐がオレを見て、ふ、と微笑んだ。
「あ。優月、聞いた。良かったな」
その言葉に、頷くと、くくっ、と笑って。
「玲央が何かしたら言えよ?」
とふざけた口調で言われて、ん、と笑うと。
「しねーから」
玲央が後ろですぐそう言って、甲斐が苦笑いしてる。
「近々祝う会するって勇紀が言ってるから、そん時な」
微笑む颯也に、うん、と頷くと。
「じゃー席取ってくる」
と、3人は行ってしまった。
玲央に引かれて、メニューの前から、少し離れた。
「食べ終わったら連絡入れろよ。早めに行こうぜ」
「うん」
「部室に絵の道具置いてるから、寄るけどいい?」
「うん。その後、コンビニ行っていい?」
「ん、クロのエサだろ? 行くと思ってた」
玲央を見上げて頷くと、ふ、と笑んで、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。
「――――……」
なんか。もう。このままくっついてしまいたいんだけど。
――――……できる訳ないしな。
勇紀とは、別に抱き合っていられるのに。
……玲央と出来ないのは……… それに、意味があるから、だよね。
何の意味もないと、抱き合えるけど。
大好きで抱き付くのは、やっぱり人前じゃ恥ずかしい。
仕方なく、玲央と離れようとした瞬間。
「……部室で、抱き締めさせて」
こそ、と囁かれてびっくり。
…………考えてた事、バレてたのかな。
かあっと熱くなる。
クスクス笑われて、またクシャクシャと髪を撫でられる。
「食べたらな」
「うん」
オレは玲央と別れて、そのままご飯を買いに行って、皆が座ってる所に戻った。
「おー優月、おかえり」
「うん」
座って、鞄を椅子に引っ掛けて、「いただきまーす」と食べ始める。
「優月がさっき話してた奴って、有名な奴だよな?」
「抱き付いてきた奴もだよな?」
「結構有名なバンドの奴らだろ?」
「あ、うん。そう……」
頷きながら、もぐもぐ食べ進める。
「最初に喋ってた派手な奴、名前何だっけ」
「ん。玲央だよ」
「ああ、神月玲央か」
すぐフルネームで出てくるとか。
――――……ほんと、玲央、有名人だなあ。
ってまぁ。オレも知ってた人だし。
――――……オレの耳に入ってくるって、よっぽどだからなあ……。
オレがいくつか知ってた玲央の噂は、もう学校の人は皆が知ってるんじゃないだろうか、と、思ってしまう。
他人の噂とかにまったく興味が無くて、聞こえても、ふーん位でスルーで、いつもなら記憶に残らないのに。あんまり何回か耳に入るから、覚えてしまったんだよな……。
「優月、仲いいの?」
「……うん。仲いいよ」
「何か接点あんの?」
「接点……まあ、勇紀……あの、抱き付いてきた人は、具合悪かったのを助けたのがきっかけで……」
「神月は?」
「――――……玲央は……たまたま会ったんだけど」
答えてる内に歯切れが悪くなってしまう。
これ以上突っ込まないで。とちょっと焦りながら、ご飯を食べ続ける。
「外見派手だけど、中身も派手なんだろ?」
「噂結構すごいけどどーなの?」
……んーまあ、少し前なら……オレが聞いてた噂は大体合ってた気がするけど……。でも、玲央変わった、思うし……。
「オレ噂は全部は知らないけど……玲央のバンド、皆良い人達だよ」
言えないまでも、最低限の所は、言ってみた。
皆、ふーん、と頷いてる。
「バンド4人で固まってると、すごく見た目が派手なのは、そうだと思う」
4人を思い浮かべて、本当に相当派手な様に、ふふ、と笑ってしまうと。
「まあ優月と仲良しなんだもんなー、悪い奴とはお前つるまなそうだしな」
そんな風に言われて。
ふと、笑んで、「皆優しいよ」と伝えてみた。
……多分玲央は噂なんか気にしない人だと思うけど。
オレがこうして皆と話してる内に、噂が少しずつでもなくなって、変な偏見が消えて。……とりあえずオレの周りだけでも、玲央の事を少しずつ、分かってくれたらいいなあ。
それから。
……いつか、玲央が相手だって。
言えたら、いいな。 すぐじゃなくていいんだけど。
もっとずっとずっと玲央と一緒に居れて、もっともっと大事になってった頃、とかでもいいから。
大好きなのが玲央だって、言えたらいいな。
259
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる