上 下
291 / 825
◇「恋人」

「恋愛の話」*優月

しおりを挟む


 2限終了。
 やったー、早くご飯食べて、玲央とクロに会いに行こう。

「優月飯行く?」
「うん、行く」
 立ち上がりながら答えて、皆と歩き出す。

「今日は幼馴染良いの?」
「うん、昨日食べたから」
「ほんと仲いいなー」
「そだね」

 頷いていると前に歩いてた2人が振り返った。

「あの女の子、超美人だよな」
「ん??」
「幼馴染の子」

「あー、美咲?――――……うん、昔から、綺麗だったよ」

 そんな風に答えると、皆がへー、と興味津々。


「1回も好きになった事とか無いの?」
「そうだよな、恋愛っぽくなんないの?」

「……んー。無いね、多分、お互い1回もないね」

 そう言うと、皆がどっと笑う。

「ずっと姉弟って感じだったから。今もそんな感じする時あるし」

「そんなもん?」
「綺麗だなーとか思わないの?」

「そりゃ綺麗だなとは思うよ? 思うけど……恋愛じゃないなー。ていうか、そもそも絶対美咲のタイプじゃないし、オレ」

 クスクス笑いながらそう言うと、なるほど、と皆がすごく納得する。

「そんな納得されるのもちょっと嫌なんだけど」

 むむ、と言うと、皆また笑ってるし。

 まあいいけどさ。
 言いたい事は分かるし。


「そういえば優月の恋愛話って聞いたことねーな?」
「そーいやそーだね」

「んー。去年はそういうの何もなく過ごしてたからね」

 ここに居る皆は大学からの友達。去年は好きな子とか居なかったから、まあ、話してる訳もない。

「ん? 去年は?」

 鋭い1人に突っ込まれる。

「去年はって、何? 今年はあるのか、そういうこと」
「え、マジで?」

 お、と盛り上がってきた時、ちょうど食堂について、皆がドアを入る所で1列になる。このままうやむやにならないかなーと期待してると、前に居る友達に、「居るの? 好きな子」と聞かれた。


「……ん」

 頷くと、おーそうなんだ、と笑う。


「付き合ってる?」
「……うん」

 また頷くと、おお、とすごく楽しそうな顔をして。


「なあなあ、優月今付き合ってるんだって!」

 前を歩いてた皆を呼び止めて、おっきな声で叫ばれた。

「わあ、声がでっかいってばっ」
「いいじゃん、なんかめでたい」

 時間が早かったからか、まだそこまで混んでない食堂で騒いでるから、めっちゃ目立ってる気がする。 


「何々、ほんと?」
「学校の子?」
「学部は?」
「どんな子?」

 めっちゃ聞かれてる。

 ……ここで、玲央だって、言うべきだろうか……。
 なんかさっきもこんなこと考えてたっけ……。

 いや、多分ここでそんな事言ったら、もう、皆にここで叫ばれる……。


「いいから、ご飯買おうよ……」

 そう言ったら、皆、オレを余計取り囲んでくる。


「言えよー、聞きたいじゃん」
「そうだよ、そういえば、皆の恋話知ってるけど、優月のだけ何も知らないし」

「だって、無かったんだもん」

 困ってそう言うと。

「だから今はあるんだろー?」
「そうだよ、どんな子か位言えよー」

 そう言われて。


「……すっごく、優しい」

 玲央の事を思い出してしまって、ちょっとしみじみ言ってしまったら。
 皆がはた、と固まって。

「何だそれー! もっと詳しく言えー」
「学校の子?」

 ……頷いたら、絶対、吐かされるまで、離してくれない気がする。
 でも、違うって嘘つくのもなんか、玲央を否定するみたいで、嫌だし……。

「が、学部違うから、知らないと思うから……さ。ご飯買おう」

 言って、皆から離れようとするのだけれど、腕を掴まれて、戻される。と同時に、1人に肩を組まれてしまう。


「もー、優月ってばー、水くさいこというなよー」


 ……この学校は、学部毎にクラスに別れる。
 クラスで動くのは、英語とかそういう全員が確実に受ける授業くらいで、それ以外では、あんまりクラスとしての活動は無いのだけれど。

 何だかやたら仲が良いオレのクラスは、お酒無しの飲み会とかをよく開いてる。付属校の出身でもないし、サークルとか入ってないオレでも、なんかすごく仲良しがたくさん居るのはそれのおかげ。それはとっても楽しい、のだけれど。

 水くさいとか言われちゃうと、ちょっと困るんだけど。
 今、この時点でものすごく楽しそうな皆に、相手が玲央だなんて情報を与えたら、大変な騒ぎにー……。


「名前は?」
「…………な、内緒……」

「はー?」

 皆が叫ぶ。


 ここは、学食に入ったすぐの所、メニューの前なので、少なからず邪魔だと思う……。


「ね、皆、ここ邪魔だから、動こうよ……」


「なあ、どんな子?」
「そーだよ、教えろよー」


 うーん、オレがこんな話するの初めてだから。
 ……聞きたいっていうのはすごく、分かるんだけど……。


「今度飲み屋とかでゆっくり……」

 そう言ってみるのだけど。

「どんな見ため? 可愛い? 綺麗?」
「優月は、可愛い子かな?」


 そんな事言われて、ふふ、と笑ってしまう。


 めちゃくちゃカッコよくて、たまに可愛いなーって人だけど。
 ……言ったら、盛り上がりがすごすぎると思うので、言えない。

 と思った瞬間。



「優月?」


 後ろから呼ばれる。
 ――――……凛とした声。

 聞き間違えるはずも、なく。


 振り返ると同時に、オレに肩を組んでた友達が手を離した。



「玲央」


 オレが玲央の名前を呼んで、笑顔になると。
 ふ、と優しく瞳を緩めた玲央。


 それを見た瞬間。


 オレが付き合ってるのは、この人だよ、って皆に言ったら、どうなるのかなーと、すごく興味が……。



 ……言える訳ないけど。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

嘘〜LIAR〜

キサラギムツキ
BL
貧乏男爵の息子が公爵家に嫁ぐことになった。玉の輿にのり幸せを掴んだかのように思えたが………。 視点が変わります。全4話。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...