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◇「恋人」

「朝ごはん」*優月

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 出し巻き、鮭、みそ汁、ごはん。
 それから、コーヒーを淹れた。

 全部テーブルに並べて、玲央と向かい合って座る。

「いただきます」
 2人で手を合わせて、食べ始める。

「――――……」

 
 ――――……お味噌汁おいしー……。
 
 
 無言でひたすら味わってると。
 
 

「なんかさ」
「ん?」

「作れるけど――――……ちゃんと作ったの、すげえ久しぶり。しかも、こんな和食とか」
「そうなの?」

「1人だから――――……作っても、パスタ、とか。……このマンションに入ってる店で買ってきたり」

 玲央の言葉をうんうん聞きながら、ぱく、と出し巻きを口に運ぶ。

「おいしー……」

 しみじみ言うと、玲央が、クスクス笑う。


「うまい?」
「焼き方も……最高。見てたけど、今度は教えて?」

「いーよ」
「ありがとう」

 超美味しい。ほくほく幸せになりながら、オレは玲央を見つめる。


「こんなに美味しいのに作らないとか、もったいないー」
「そうか?」

「もう。お店を開いてほしい」
「はは。そんな美味い?」

 言いながら玲央も、出し巻きを口に運んで。しばらく味わっていたけれど。

「……久しぶりに作っても、覚えてるもんだな」
「玲央はほんとなんでもできる人だねー」

「何でも、な訳じゃねえけど」

 玲央は苦笑いで謙遜してるけど。

 ……何でもじゃないかなあ。

 死ぬほどカッコいいし。ものすごいモテるし。
 歌も歌えて、楽器も弾けるし。
 料理も出来て。家も綺麗だから、家事もちゃんと出来るみたいだし。
 あ、なんか戦う系の習い事もしてたらしいし。


 まあ……否定されそうだからこれ以上は言わないけど。
 玲央って、漫画とかから出てきた、モテモテの主人公みたい。


「あ、優月。 今日、絵を描きに行くんだろ?」
「うん」

「オレ、車で迎えに行く?」
「え。車?」

「ここの駐車場とまってる。親父名義だけど」
「車……」

 そんな、またまた迎えなんて悪いし――――……と、遠慮の言葉が出そうになったのだけれど。


「……良いの?」

 そう聞いたら、玲央がふ、と瞳を緩めた。


「珍しい」
「え?」

「そんなの良いよ、オレ帰れるから、とか絶対言うと思った」

 クスクス笑う玲央に、オレはちょっと苦笑い。


「言おうと思ったんだけど――――……」
「けど?」

 一瞬、間を置いてから。

「……また変な事言うかも」
「ん? 変なこと?」
「うん……」

 頷くと、玲央がふ、と笑う。

「いいよ、何?」

 興味深そうに、面白そうに。 
 玲央がオレを覗き込んでくる。

 ――――……うう。
 どーしてこんなにカッコいいんだろう、この人は。

 瞳の力が、半端ないんだよね……。
 ……何か、瞳の中に入ってないかな。なんかこう、光る物みたいな。

 …………だめだ、意味わかんない、オレ。
 えーと。


「あ、あの――――…… 玲央がね」
「うん」

「運転してるとこ、見たいから。……来てほしい」
「――――……」

 思ってるままにそう伝えたら。玲央は、ちょっと首を傾げた。

「迎えに来てほしいとかじゃなくて、オレが車運転するとこが見たいのか?」
「……うん」

 絶対カッコいいに違いない……。


「――――……変なの、優月……」

 そんな風に言って、玲央は、ぷ、と笑いながらも。




「いーよ。行くから、後で場所教えて」
「うん!」


 やったー。
 嬉しいな。


 優しい笑顔を見つめつつ、他愛もない話をしながら、朝ごはんを食べ終えた。







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