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◇「恋人」

「したい」*優月

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「優月、何でキスしといて、そっち向くんだよ?」
「……うん」


 笑いを含んだ声で、そう言われて、頷く。


 ……その通りだとは思うんだけど……。
 だってさ……。


「……キスはね、したくなったんだけど」
「ん」


「――――……濡れてる玲央、カッコ良すぎて。恥ずかしすぎて」
「……何言ってんの、お前」

 クスクス笑いながら玲央は、腕の中のオレをくる、と振り返らせた。



「まあ――――…… 濡れてる優月も、可愛いけど」


 クスクス笑って、頬にキスしてくる。

「……っ」

 至近距離。濡れた前髪の間から、大好きな瞳に見つめられると。
 なんか、かあっと血がのぼる。


「――――……玲央って……存在が……」
「存在?」

「……そこに居るだけで、なんか、すごいよね……」
「んー? ……意味が分かんねえけど。好きってこと?」

 くす、と笑まれると、もう駄目。
 裸だし、濡れてるし、カッコいいし、細められる瞳が、優しすぎて。


「…………っ」

 見つめ合ってる事に耐えられなくなって。
 むぎゅ、と抱き付いて、玲央の視線から隠れる事にした。


「……うん、好き」

 そう言うと、ふ、と笑った玲央に、ぎゅと抱き締められた。


 男の人に抱き締められるという、この状況がまだ、現実っぽくはない。
 オレの中には、これは、本来無かった、というか。

 玲央と触れ合って急に、そういう事もありなんだと作られた概念だから。

 服着てれば、まだ、そんなに意識はしないで抱き締められていられるし。
 ベッドで色々しちゃってる時なら、なんかもういっぱいいっぱいだから、正直そんな事、気にしてる余裕もないし。


 色々されて訳が分からなくなってる状態でもない、シラフのこんな時に。

 綺麗に筋肉のついた裸の胸に、抱き締められるとか。
 ……まだ全然慣れないんだけど。


「……優月、上向いて」
「――――……」


 その言葉に誘われるみたいに、すぐに上向くと。
 ふ、と優しい瞳に見下ろされて。

 すぐに、唇が、重なってくる。


「……ん」

 まだ、全然、慣れないし。
 玲央がカッコ良すぎて、恥ずかしいし。



 でもやっぱり、どう考えても、好きすぎて。
 



 触れるだけのキスを、何回か、重ねた玲央に、ぺろっと唇を舐められる。



「――――……っ」

「舌、出して」
「……っん」


 ゆっくり出した舌に、かぷっと噛みつかれるみたいにキスされて。
 ぞくっと、震える。 
 

「……優月、今日疲れてる?」
「え?」

「……明日1限だよな?」
「うん」

「……早く寝たい?」
「――――……」


 早く寝たいって何?? 一瞬そう思ったんだけど、あ、と理解。
 こういうの、ちょっと分かるようになったかも。とウキウキしつつ。


「まだ寝たくないよ」

 即答してみた。

 そしたら、玲央が一瞬きょとんとして。
 ぷ、と笑った。

「――――……とか言うと……しちゃうけど?」

 せっかく即答したのに、玲央が苦笑いでオレの頬に触れてる。


「何で、しちゃう、なの??」

 だめなの? 


「……毎日、襲うとか。お前の体的に、ありなの? ほんとは疲れてるのも、寝た方がいいのも分かってるし」

 玲央の言葉をじっと聞いていたけれど。


「オレあんまり体にダメージないよ。多分玲央が、優しくしてくれてるからだと思うんだけど……」

「――――……」

「……疲れてるとか眠いとかより……玲央と、したいんだけど……」

 言ったら、玲央は、ちょっとびっくりした顔をした。


「したいの? 優月が?」

「……え、何で? したくないと思ってると思うの?」



「んー。ていうか。――――……キスしてれば幸せ、とか言いそうだから」


 クスクス笑われて、そんな風に言われる。






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