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◇「恋人」

「いつもどおり」*玲央

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「優月くんがさっき言ってた恋人が、彼氏だとは思わなかった」

 里村さんがクスクス笑いながらそう言って、優月を見つめる。

「もともと男が対象なの?」
「違うんですけど……」

「違うんだ」

 ふーん、と言いながら、オレにも視線を向けてくる。

「玲央くんは?」
「オレは……バイですね」

「へえ、そうなんだ」

 里村さんは、特別驚きもしないで、ふ、と目を細めて笑った。

「なんか君、めちゃくちゃイケメンな子だね」

 そんな風に面と向かって言いながら、ちら、と蒼さんを見る。

「蒼と張るかなー?」

 そんな事を言って、蒼さんに苦笑いされてる。
 あ、と優月が楽しそうに声を出して、話し始めた。

「玲央、去年の大学祭のイケメン投票でダントツ1位になってて。オレ遠くから見てたんですけど」

 ……初耳。

「……見てたのか?」
「うん、見てたよ? あそこで初めて玲央を見たのかなあ。……言ってなかったかも」
「聞いてないよ」

 あれ見られてたのか。……面白がって勇紀達がエントリーしたら通ってしまって、途中棄権無しと言われて、結局決勝まで出されて、結構恥ずかしい思い出なんだけど。

「あれ、勇紀達が勝手にエントリーしただけだから。オレが自分で出したんじゃないからな」
「え。別に自分で出してもいいのに?」
「それはなんか嫌だ」
「ふふ、何で?」
「何でも」

 そう言うと、くす、と笑って、優月が蒼さん達に目を向ける。

「あの時は、玲央ととか……考えもしなかったから不思議だけど」

 不思議、か。
 ……まあ、不思議だけど。


「不思議だけど、今はそれで良いんだろ?」

 蒼さんが、そう言う。
 すると、優月が一瞬きょとん、として。


 それから、めちゃくちゃ嬉しそうに、ふんわり笑った。


「うん」

 オレは。
 可愛くて、固まってただけだけど。

 蒼さんと里村さんは、優月の笑顔を見て、一瞬ぷ、と笑って、顔を見合わせた。


「ここまで嬉しそうに笑われちゃうと、もう何も言えないだろ」

 里村さんが蒼さんに言うと、蒼さんは、肩を竦めた。

「オレ元々何か言うつもりもないけど」


 そこで、扉がノックされて、料理が運ばれてきた。

「わあ、すっごい美味しそうー」

 優月は本当、いつもどおり。
 里村さんとは初対面な筈だけど……ほんといつも通り。

 オレと居る時にも見せる嬉しそうな顔で、料理を見ている。

 いっつも変わんないのは、いっつもそのまんまだからなんだろうな。
 そう思うと、このいつも通りっていうのが、すごく貴重な気がする。


 一通り料理を並べて店員が出て行くと、蒼さんが食べていいよ、と笑う。
 いただきます、と早速箸をとる優月。

「いっつもすごい嬉しそうに食べるだろ」

 蒼さんがオレにそう言って、ちょっと苦笑いしてる。


「何でも食べさせたくならないか?」
「……なりますね」

 ぷ、と笑って答えてしまうと。
 蒼さんも可笑しそうに、口元を押さえながら。

「――――……やっぱ、玲央も、なるんだな」

 そう言った。大きく同意で頷いてると、優月が、ぱくっと食べながら、オレ達を見つめる。

「……食べないの?」

 モグモグしながらそんな風に言う優月に、本当にその頬に触れたたいんだけれど。 ――――……我慢だな。


「ん、食べるよ」

 優月と視線を合わせると、つい可愛くて、くすっと笑ってしまう。



「……優月のこれを好きな奴がさ、優月と付き合うのは、すげえイイかも」


 ふ、と蒼さんが笑ってオレを見る。


 なんかそんなのを聞くと。
 ――――……蒼さんがどんだけ優月を大事なのかが分かる気がする。






 ……まあもともと、分かってはいるんだけど。




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