269 / 825
◇「恋人」
「いつもどおり」*玲央
しおりを挟む「優月くんがさっき言ってた恋人が、彼氏だとは思わなかった」
里村さんがクスクス笑いながらそう言って、優月を見つめる。
「もともと男が対象なの?」
「違うんですけど……」
「違うんだ」
ふーん、と言いながら、オレにも視線を向けてくる。
「玲央くんは?」
「オレは……バイですね」
「へえ、そうなんだ」
里村さんは、特別驚きもしないで、ふ、と目を細めて笑った。
「なんか君、めちゃくちゃイケメンな子だね」
そんな風に面と向かって言いながら、ちら、と蒼さんを見る。
「蒼と張るかなー?」
そんな事を言って、蒼さんに苦笑いされてる。
あ、と優月が楽しそうに声を出して、話し始めた。
「玲央、去年の大学祭のイケメン投票でダントツ1位になってて。オレ遠くから見てたんですけど」
……初耳。
「……見てたのか?」
「うん、見てたよ? あそこで初めて玲央を見たのかなあ。……言ってなかったかも」
「聞いてないよ」
あれ見られてたのか。……面白がって勇紀達がエントリーしたら通ってしまって、途中棄権無しと言われて、結局決勝まで出されて、結構恥ずかしい思い出なんだけど。
「あれ、勇紀達が勝手にエントリーしただけだから。オレが自分で出したんじゃないからな」
「え。別に自分で出してもいいのに?」
「それはなんか嫌だ」
「ふふ、何で?」
「何でも」
そう言うと、くす、と笑って、優月が蒼さん達に目を向ける。
「あの時は、玲央ととか……考えもしなかったから不思議だけど」
不思議、か。
……まあ、不思議だけど。
「不思議だけど、今はそれで良いんだろ?」
蒼さんが、そう言う。
すると、優月が一瞬きょとん、として。
それから、めちゃくちゃ嬉しそうに、ふんわり笑った。
「うん」
オレは。
可愛くて、固まってただけだけど。
蒼さんと里村さんは、優月の笑顔を見て、一瞬ぷ、と笑って、顔を見合わせた。
「ここまで嬉しそうに笑われちゃうと、もう何も言えないだろ」
里村さんが蒼さんに言うと、蒼さんは、肩を竦めた。
「オレ元々何か言うつもりもないけど」
そこで、扉がノックされて、料理が運ばれてきた。
「わあ、すっごい美味しそうー」
優月は本当、いつもどおり。
里村さんとは初対面な筈だけど……ほんといつも通り。
オレと居る時にも見せる嬉しそうな顔で、料理を見ている。
いっつも変わんないのは、いっつもそのまんまだからなんだろうな。
そう思うと、このいつも通りっていうのが、すごく貴重な気がする。
一通り料理を並べて店員が出て行くと、蒼さんが食べていいよ、と笑う。
いただきます、と早速箸をとる優月。
「いっつもすごい嬉しそうに食べるだろ」
蒼さんがオレにそう言って、ちょっと苦笑いしてる。
「何でも食べさせたくならないか?」
「……なりますね」
ぷ、と笑って答えてしまうと。
蒼さんも可笑しそうに、口元を押さえながら。
「――――……やっぱ、玲央も、なるんだな」
そう言った。大きく同意で頷いてると、優月が、ぱくっと食べながら、オレ達を見つめる。
「……食べないの?」
モグモグしながらそんな風に言う優月に、本当にその頬に触れたたいんだけれど。 ――――……我慢だな。
「ん、食べるよ」
優月と視線を合わせると、つい可愛くて、くすっと笑ってしまう。
「……優月のこれを好きな奴がさ、優月と付き合うのは、すげえイイかも」
ふ、と蒼さんが笑ってオレを見る。
なんかそんなのを聞くと。
――――……蒼さんがどんだけ優月を大事なのかが分かる気がする。
……まあもともと、分かってはいるんだけど。
289
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる