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◇「恋人」

「キス」*優月 ※

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「あ、玲央?」
『ああ、優月。終わった?』

「うん。来てくれたんだね」
『――――……要らないって言われてたけど……』

 そんな風に話し出した玲央に。
 そんな事言わせたいんじゃない、と思って。

 ……素直に甘えるって。
 その方が、玲央、嬉しいって――――……そうかもしれない。

 とりあえず、嬉しいって、伝えよう。
 そう思って。

 玲央の、言葉を遮った。


「すごく、嬉しい」
『え?』

「……来てもらうとか悪いなって思ってたんだけど――――…… やっぱり、来てくれて、嬉しい」
『――――……すぐ行く。どこ?』

「あ、昨日のお昼食べたとこに向かってるんだけど……違うとこ?」
『あってる。そこの側のコーヒーショップ。すぐ出るから待ってて』


 電話、繋がったまま。
 会計してるっぽい雰囲気。

 玲央の様子を、電話で聞いてるとか。
 なんか楽しい……。

 喋ってなくても好きなんだけど、どうしよう。
 なんて、自分でもどうなんだろうというような事を思っていたら。

 後ろから、「優月」と呼ばれた。

 あ、玲央。
 玲央の声が嬉しくて、振り返ろうと思ったけど、それより早く肩を抱かれて、なぜだか路地裏に数歩入る。表の明るい場所とは、数歩進んだだけで、全然違う。

「え、玲央どう――――……」
「キスさせて」

 ぐい、と抱き込まれて、否応なく上向かされて。
 唇が重なった。

「……ン……!」

 びっくりして、玲央の顔を、じっと見つめてしまう。
 伏せられた瞳が――――…… それだけで、超カッコイイんだけど。

 何でそんな、一生懸命な感じで、キス、してくるの……。
 ぞくん、と体の奥が震える。

「……んん、ン………っ ……ふっ……」
「――――……」

「……ん、は……ン……ッ」

 玲央の顔見てる余裕なんか無くなって。
 深いキスに、涙が浮かんで、熱くなる。


 何……どしたの、玲央……。


「…………ふ、は……っ………ンんっ……」


 あ――――……。
 また、膝、抜けそう――――……ダメ、玲央……。

「んっ ……」

 がく、と崩れそうになるけど、ほんとに毎回、見事に抱き止めて、くれて……。


「……っン……れ、お……?」
「――――……優月……」

 激しく絡んでた舌は外れたけれど。
 また重なって、吸われる。

「……んんん……ぅぅ、ん……っ」

 何、すんの、もう――――…… 立てないってば……っ

 むぎゅ、と抱き締められて。

 はあ、と、息が零れた。

 こんな僅かな間の、キスで、こんなに息が上がって、体温が上がって、
 頭ん中、真っ白で――――……膝から力が抜ける、とか。



「玲央……のキス………やらしすぎ……っ」

 涙が勝手に零れていくのに、それを見て、また、愛おしそうに目を細めて笑う玲央に、ちゅー、と目尻にキスされる。

「も……立て、ないし……っ」
「抱いててやるから」

 ぎゅー、と腕の中に閉じ込められたまま、後頭部を撫でられまくる。


「…………どう、して、急に……」
「――――……お前が悪いと思うんだけど」

「…………オレ……??」

 オレ、何か、したっけ……?

 ぐす、と泣きながら、玲央を見上げると。
 また反対側の瞼にキスされる。


「……っ……何で、オレ……??」

「可愛くて無理……」
「――――……何が……?」


「……迎え、嬉しいとか。――――……可愛い」

「――――……」

 ぎゅーと抱き締められながら、顔の色んな所に、ちゅーちゅーキスされる。


 来てくれて嬉しいって……言った、あれ……???
 え。あれ、で。

 オレは、こんなに、めちゃくちゃなキスを、されてしまったの……??
 うそでしょ……??



 ……玲央……。
 ――――……嬉しいんだ、ほんとに……。

 それはなんだかすごく分かったけど。

 ……頼ると、こんなになっちゃうんだと…………こ、こまる……。


 ぎゅー、と抱き締められて。
 撫でられて。色々キスされて。



「くすぐったい、てば」

 玲央から少し離れつつ。


 でもなんだか――――……。
 口元に浮かぶのはどうしても、幸せな笑みになっちゃうのは。


 もう。
 仕方ないよね……。





 だってなんか。

 ……可愛いんだもん。玲央。





 


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