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◇「恋人」

◇報告*玲央

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「ごちそうさま」

 優月が手を合わせた。2人で立ち上がって、片付け始める。


「玲央、オレ今日スーツ持ってって、そのまま蒼くんのとこ行ってくるね」
「ん。仕事終わって電車乗る時連絡して。駅まで行くから」

「え、でも、ここのジム行くんじゃないの? オレ、1人でここ、来れるよ」
「迎え行くから、飯、駅の付近で食べようぜ。遅くなるだろうし」

「……ん、分かった。ありがと」

 片付けが終わり、オレは引き出しから、鍵を取り出した。

「優月、これ」
「うん?」
「鍵。渡しておく」
「え、鍵…… いいの?」

 遠慮がちに手を出した優月の手に、カードキーを渡した。

「良くなきゃ出さねえし」
「ありがと」

「財布に入れときな。使い方今日の帰り教えるから」
「うん。ありがとう」

 嬉しそうに握り締めている優月。
 微笑みながら時計を見ると、結構もう良い時間だった。


「優月、そろそろ出ないとだよな」
「うん。あ、玲央は1限ないでしょ? オレ、1人で行くよ」

「一緒に行く。曲作ってればいいし」

 じっと見つめてから、優月、にっこり笑う。



「オレ、結構1限の授業取りたいの多くて、途中があいてたりするんだけど…… だから、いつも1限一緒に来てくれなくて、いいよ?」

 言った優月の腕を引いて、思わず抱き締めてしまった。


「……っと。玲央?」
「行く」

「――――……ん……」


 ちゅ、と口づけて、ぽんぽんと頭を撫でると。
 優月が、めっちゃくちゃ嬉しそうに笑った。


「――――……」

 どき、と胸が音を立てて。
 少し驚く。



 人の笑顔見て、ドキドキするとか。
 ――――……何だこれ。 ……恥ずいな。
 

「じゃあ、行こ、玲央」
「ん」


 2人で初めてこの家で過ごして、初めて一緒に、出発。
 一緒に誰かとここから出かける事自体が、そもそも初だし。

 靴を履いて、玄関から出て、嬉しそうに優月が振り返った。


「玲央また皆に、早過ぎって驚かれちゃうよ?」
「言わせとけよ」

 クスクス笑って返すと、そうだね、と見上げてくる。


 ――――……今日、勇紀達には話そう。
 まあ。ほぼ付き合ってると思ってるんだろうけど。
 



 ◇ ◇ ◇ ◇



「ええええええ!! セフレ全部切ったの? え昨日?? で、もう、付き合ったの?」


 あれ。
 ほぼつきあってると思ってると思ってたのに。

 2限が始まる前に現れた勇紀に叫ばれた。――――……うるさい。
 部室だから他に誰も居ないからいいけど。


「もう付き合ってるようなもんだったろ?」

「いやもう、大好きなのは分かってたし、その内なるんだと思ってたけど、昨日全部連絡したんでしょ? それで、速攻告白したの?」

「告白……好きっつーのは分かってたし。 恋人になってもらった」
「えええええ、すご、早や、玲央!」


 勇紀がスマホを取り出して、何だかうるさく言いながら、何か打ってる。
 5分後、颯也と甲斐が入って来た。


「緊急事態だから、いますぐ来いってなんだよ」
「オレらもう2限の教室向かってたっつーの」

 颯也と甲斐が、勇紀を見て、それから、オレにも視線を流してくる。


「セフレ全部連絡して終わらせて、優月と付き合ったんだって!」

 大興奮状態の勇紀。
 甲斐も一気にテンション上がったらしく、パッと笑顔になった。


「へえ。行動早ぇな。いつ連絡したの? 結構人数居たんだろ」

「昨日。優月が仕事中ずっとやってた」
「はは、ずっとって。どんだけだよ」
「るせーよ」

 苦笑いで返すと、こっちを面白そうに見ている颯也と目が合った。

「――――……優月は? 喜んでる?」

 颯也のテンションは変わらない。
 勇紀と甲斐もこんな風に聞くのかと思ったけれど。


「そうだよ、優月! めっちゃ会いたい―! おめでとうって言いたいー」
「お前、外で優月見かけても叫ぶなよ」

「叫ばないよ……あ、いや、叫ぶかも……」
「やめろよ」


 一言制すと、颯也がもう一度言った。


「で? 優月は?」
「ああ。優月は――――……ん、まあ、笑ってるかな」

「ふーん」

 そこで颯也が急にクスクス笑い出した。


「つか、めちゃくちゃ笑ってンの、お前だけどなー」

 その颯也の言葉に、ノリノリで乗ってくる勇紀と甲斐。



「――――……」


 やっぱり颯也も一緒だった……。


 あー。マジでうるさいぞ。
 朝からテンションが高すぎる。


「……とりあえず2限いかねーと、始まる」


 オレが立ちあがると、皆、可笑しそうに笑いながら頷いて、鞄を持ち直す。




「今夜皆暇? 飯行こうよ、優月呼んで」

 勇紀の声に、「今日も優月、仕事なんだって」と答えると、えええー!とまた叫ぶ。


「やだよ、話したいしー!」
「明日は絵の教室だし、今日明日無理」

「えええーー!!」



 余程嬉しいのか、勇紀のテンションに、付いていけない。



 優月に最初に会わせるのは、オレの前でってことにしよう。

 隠さないとは言ったけど、勇紀と優月が会った瞬間に、
 半径数百メートルに知れ渡りそうだ。







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