229 / 838
◇週末の色々
◇我慢*優月
しおりを挟む出てこない玲央を迎えにトイレのドアを開けると、玲央はオレを見て、ちょっと苦笑い。それから、オレの押さえてるドアを更に開けて、トイレから出てきた。オレの前を歩いて、そのまま出口に向かって。
「ごちそうさま」
レジにいた店員に声をかけて、素通りしてしまう。え、と思った次の瞬間、気づいて。
「あ、玲央また先に会計……」
「ご馳走するから、仕事頑張れよ」
振り返って、ふ、と笑う玲央。
――――……さっきのホテルもいくらか教えてくれないし。というか、あそこ、なんか払える気がしないんだけど。……いくらなんだろ、ほんとに。
ほんとこの話、誰かとしたい。
蒼くんかなあ。でも蒼くんも玲央寄りだからな……。美咲かな、智也かな。
んー、勇紀達かなあ……。でも、勇紀達に聞いたら、きっと、今まで玲央はそうだった、で終わってしまいそうだし……。
「……ごちそうさま、玲央」
いいのかなあ、と思いながら、そう言うと。
ん、と玲央は笑う。
きっと玲央には普通なんだろうなあ……でもなあ……。
「それより優月、さっき、ほんとにごめん」
考えてたら急に言われた言葉。とりあえずこっちはまた後で考えよう。
店の前から少しずれて、「さっきのって?」と見上げると。
「あ……さっきのごめんと同じ?」
「そう。 ごめんな」
「もう謝ってくれたから、いいのに、何で改めて言うの?」
そう聞くと。
玲央は、ふー、とため息を付きながら。
「……優月にキスされて、我慢て言われてさ」
「うん」
「我慢すんのすげーつらいなと思ったから。も1回ちゃんと謝ろうと思って」
「――――……あ……さっきのほっぺにしたやつ……?」
「ん」
「……え、あれって…ほんとに我慢するとか、そういう話になるの?」
「なるけど?」
「――――……な、るの??」
ちょっとほっぺにキス、しただけなんだけど。
「……玲央のは、つらいけど……あれは、大丈夫じゃない……??」
続きしたくなるような、我慢しなきゃいけないようなものじゃなかった気がするんだけど。
「だってすげー可愛かったし」
むー、とちょっと膨れた玲央。
……さっきのオレの真似してるのかな。
なんか可笑しくなって、ぷ、と笑ってしまった。
「……玲央、そんなにオレにキスしたいの?」
「――――……したいっつってるじゃん」
まわりの人には聞こえないようにこっそり聞くと、すぐそう言われて。
もうなんか。胸がいっぱい。というか。好きすぎて。
だめだ、もう、今ここでキスされるんでも良いって、一瞬思っちゃうけど。
だめだめ、すぐ見える距離の所に蒼くんがいる。
違う違う、蒼くんだけの話じゃないし。人いっぱい。
無理無理無理……。
「――――……帰ったら、しようね、いっぱい」
「……だからそういう事、言うとさ、また我慢が必要になる訳。分かる?」
ふー、と玲央がため息を付いてる。
「オレも我慢するから――――……我慢してください」
「え」
何でだか最後敬語になってしまったオレを、玲央がじっと見つめる。
「優月も我慢なのか?」
「――――……」
思わず無言で、うん、と頷く。
……当たり前じゃん。
てか、その質問……分かってないな、きっと。オレの気持ち。
……キスしたいのは一緒だもん。
でも、外とか。正気保ってられなそうな時がやなだけで。
「……優月も我慢なら、オレも我慢するか……」
とか、なんかぶつぶつ言ってる玲央に、ふ、と笑ってしまう。
ずーと、キスしてたいなあとか……思っちゃうから、外で中途半端にされるの嫌なだけだし。
「あ、もう昼休み終わるの、10分前だ。早く行こ、玲央」
「ん」
さっき随分早く店を出ようとしてた筈なのになと思いながら。
2人で並んで、歩き出した。
ほんと。
――――……誰かと、キスしたりの話、こんな風にするとか。
我慢するとかしないとか。お昼から何言ってるんだかもう。とは。
思っちゃうんだけど。
――――……今までのオレの世界に全くなかったこんな会話。
こんなに好きな人と、できるの。
楽しいなー、なんていう風にも、思ってしまう。
430
お気に入りに追加
5,436
あなたにおすすめの小説


義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる