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◇週末の色々
◇思う事色々*優月
しおりを挟む蒼くんの個展の場所のすぐ近くまで来てくれた玲央と、何となく後ろ髪引かれながらも、別れた。
もうちょっと一緒に居たかったなあ……と、キリがない事を思いながら、最後に振り返ると、玲央はまだそこに居てくれて、バイバイ、と手を振ってくれた。手を振り返して、中に入ると、既に何人かのスタッフさんが居て、その中に蒼くんも居た。
「おはようごさいます」
そう言うと、皆から返事が来て、蒼くんも振り返った。
「おはよ、優月。受付んとこに紙袋ある。ここ出て奥のトイレ、フィッティングボードあったから」
「あ、うん、ありがとう。 あ、蒼くん」
「ん?」
「昨日も、ありがとう」
「おう」
二ッと笑って、蒼くんがまた皆の所に戻って行った。
トイレで着替え終えて、身支度を整えて、ふ、と息を付く。
鏡で、乱れてないか確認。ネクタイをちゃんとしめる。
ふ、と。
脱がせたい、と言った玲央の言葉を思い出して、かあっと熱くなる。
……っ……思い出すだけで赤くなっちゃうよ。
でもほんと。
……何でオレを脱がせたいなんて思うんだか、そこはよく分からない。
じー、と顔を見つめて。
う、うーん?
脱がせたい程、そんな、魅力が、オレにあるとは、とても思えない……。
なんでだろー? 玲央。
うーーん。
キレイな人に慣れすぎちゃって、逆を求めたとか……??
…………あ、落ち込むことを考えるのはやめよう。
玲央がそう言ってくれてるんだから、素直に受け取ればいいよね、うん。
さっき、別れる前、ここの近くに居るから、もし1人で昼とるなら、電話して、と言われた。
……ずっと一緒に居るのに、お昼も一緒に食べたいとか言ってくれるの。
――――……嬉しいし。
とりあえず、昼まで、頑張ろ。
受付の机の下に紙袋を隠して、ふ、と息をついた。
まだ開店までには時間がある。
ドアが開く音がして振り返ると、沙也さんが入ってきた。
「おはようございます、沙也さん」
「優月くん、おはようございます」
挨拶をしながら受付に歩いてきて、荷物を下のカゴに入れた。
「昨日、ライブ間に合いました?」
「開始にはちょっと遅れましたけど、楽しかったです。ありがとうございました」
「良かったですね」
笑顔の沙也さんに、笑い返す。
「あ、今日何時にあがりますか?」
「空いてからでいいので。人が多かったら、最後まで居ますから」
「分かりました」
そこに蒼くんが近づいてきて、沙也さんにも挨拶してる。
少し話して、蒼くんが離れていくと。
「そういえば優月くんて、野矢先生とどういう知り合いなんですか?」
「お絵描き教室の先生の、息子さんでした。入った時はまだ、高校生だったので」
「その頃から仲良しなんですか?」
「……仲良しに見えますか?」
「見えますよー、野矢先生がめちゃくちゃ可愛がってる感じがします。いいなあ」
……いいなあって。
いいなあって言うのも、なんか違う気がするけど。
オレの立場になっても、沙也さんが望んでる関係にはなれないし。
「……あれ、沙也さん彼氏さん居るって昨日言ってましたよね?」
「居ますよ?」
あ、じゃあ、何となく素敵って事?。
「でも、野矢先生が告白してくれるなら、多分、即別れます。……とか言ったら彼氏に怒られるけど。 でも、最高級に素敵すぎて、私には付き合い切れない気もしますけど」
最高級。
すごいなー、蒼くんの評価。最高級、かー。
「……優月くん、ちょっと不思議そう」
沙也さんはクスクス笑ってオレを見た。あ、バレた。と苦笑いしていると。
「近いから、分からないのかも……」
「少しは分かってますけど……」
「少しってー」
沙也さんにクスクス笑われていると。
ふ、と蒼くんがオレと目線を合わせて、ちょいちょい、と、手招きをした。
蒼くんが1人で居る所に行って、顔を見上げると。
「笑顔だから大丈夫だとは思うんだけど」
「うん?」
「昨日のあれ、あいつ何て言ってた?」
「んー……すごく、嫌だったって」
蒼くんは、ぷ、と笑って。
「それで? すごく嫌だから何だって?」
「……うーん。色々セフレとかも嫌だったよな、て」
「でもお前はそれを、アホみたいにそんなに嫌じゃないとか言ったの?」
クスクス笑いながら蒼くんに言われる。ううん、と首を振る。
「それは、会った時からもうそれが前提にあったからだよ」
肩を竦めると、蒼くんはふ、と笑う。
「嫌じゃないとは、もう言うなよな」
「うん」
「まあでも――――……昨日は幸せだったか?」
「……うん」
オレが蒼くんを見ながら、恥ずかしいので少しだけ頷くと。
蒼くんは何だか嬉しそうに笑って、オレの肩をぽん、と叩いた。
「じゃあ今日もよろしく」
「あ、うん。よろしくお願いします、蒼くん」
もうすぐ開店時間。
色々思い出す事がいっぱいあったけど。深呼吸。
頑張ろ。
気合を入れて、背筋を伸ばした。
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