184 / 825
◇週末の色々
◇涙の理由*優月
しおりを挟む――――……すっごい、泣いちゃったなー……
情けない……。
はー、とため息。
個室に一旦こもって、泣き止んで、やっと外に出た。
鏡の前に立って、自分の顔を鏡に映す。
――――……顔、もう大丈夫かな。
何でオレあんな、泣いちゃったんだろ。
トイレに来てから考えていたんだけど。
なんか、多分。蒼くんが、玲央と離れなって言ったのが、すごいショックだったんだろうなと、思う。
蒼くんのアドバイスっていつも、ほんとに的確で。
迷った時に言われる蒼くんの言葉って、オレにとってはすごい、もう言う事聞いて考えれば大丈夫、くらいの言葉ばかりで。
今までは、それでうまくいってた。
美大に行こうか、教育学部に行こうかで悩んでた時も。
美大で習うような事は教えてやれるし、絵描いて生きていきたいっつーなら、オレと父さんが助けるけど、小学校の先生になりたいかもしれないなら、そっちは行っとかないとなれないんだろ?と言われて。
もちろん、全部助けてもらおうなんて思った訳じゃないけど。
確かに、絵は後からでも学べる。ずっと習ってる久先生と蒼くん達がすごい人達だし、そういう意味ですごく恵まれてる。けど、教職課程は大学で取っといた方がスムーズ。卒業しちゃってからだと、なりたくてもなかなか難しい。
最後は自分で考えて決めてはいるけど、蒼くんのアドバイスは、いつも響いてきて。
――――……だから。
蒼くんに、玲央と居ない方が良いって言われて……。
もし、玲央が嫌がるなら、好きでも一緒に居るな、と蒼くんが言って。
それは、そうした方がいいのかもしれないと、一瞬思ったんだけど。
蒼くんを頼りにし続けてきて、聞いておけば間違いない、と思う自分と。
……玲央の事だけは、蒼くんが言っても、やだ、と思う自分とで。
なんだかすごく、ぐちゃぐちゃになって。
気付いたら、泣いてて。
しかも、玲央と離れるのはやだ、なんて言いながら泣くという…。
蒼くんが、苦笑いしてるのは分かったけど。
止められなくて、どうしようと思って俯いたら。
玲央が、来てくれてて。
涙を、拭ってくれた。
あれ、オレは、近づかないって言ってたのに。
玲央が来ちゃった……そう思ったんだけど。
何泣いてんの、て。
声が優しくて。見つめてくれる瞳が、優しくて。
触れてくれる手が優しくて。
この人から離れるの?て思ったら、余計に、泣きそうになって。
蒼くんに、ダメだろ、と言われた瞬間、あ、と思い出した。
で、トイレに、来たんだけど。
――――……だめだなー、オレ。
……玲央と付き合いのある人達がいっばい居て。
そんな所で、玲央が オレに優しくしてたらあんまり良くないって勇紀とかも言ってて……一応そこらへんも、分かってたのに。
すぐ玲央しか、見えなくなっちゃうし……。
ドアが開いて。すぐに、優月、と呼ばれる。
「蒼くん……」
「泣きやんだか?」
苦笑いの蒼くん。
「うん。ごめんね、もう大丈夫」
「――――……優月、今日夕飯、一緒に食べないかも」
「え? あ、用事?」
「お前に用事が出来るかも?」
「オレに??」
「今、玲央と少し話した」
「何を……?」
「まあ……どういう奴かとか、優月の事どう思ってンのか、少し分かったかな」
「――――……」
どう、思ったんだろう。
黙ったまま、蒼くんの言葉を待っていると。
「――――……離れろって言ったの、撤回するから。泣くなよ」
「え」
顔を上げて、蒼くんを見つめる。
「離れるとか無理だろうなと思いながら言ったけど。ごめんな、泣かせた」
「……撤回?」
「ああ。 あいつ、お前がそれを嫌がっても、嫌って言わねえんだろ?」
「……多分、言わないかな……」
「じゃあさっきの無しにする」
「そうくん……」
何だかまた泣きそうになってしまうけれど。
「もう、泣くなよ」
「泣かない……」
ぐっと、堪えるのだけれど。
「……泣いてるし」
はー、と、笑いながら、ため息をつく蒼くん。
「――――……けど、そんなに泣くとは思わなかった。ごめんな?」
くしゃくしゃと、オレの頭を撫でながら、また苦笑いを浮かべている。
「ううん。……ありがと、蒼くん」
蒼くんに反対されると、すごく、キツイから。
さっき、それでも、玲央と離れたくないって言っちゃったけど。
撤回って言ってくれて。
……やっぱり、嬉しい。
「――――……泣き止んだら戻るか」
「うん。……ね、蒼くん、オレに用事が出来るって、何?」
「んー、さっき、連れて帰っていいのかって聞いたら、良いって言わねえんだよな、玲央」
「――――……?」
「んで、あいつの方に来いってさ」
「え? ……どうして?」
蒼くんの言葉に、一瞬にして、泣いてた気持ちとかも、真っ白になる。
「来いって、玲央が言ったの?」
「どうなるか分かんねえけど、その方が、動くかなーとか言ってたけど」
「――――……動くって??」
何だろ動くって。何が??
「さあ……分かんねえけど。何にしても、お前、玲央についてくんだろ?」
そんな風に言った蒼くんの顔を見て。
うん、と思ったままに頷くと。蒼くんは、クスっと笑った。
「じゃ、行くか。とりあえずさっきの席戻るから。様子見ながらいこ」
「――――……うん」
ちょっとドキドキするけど。
――――……玲央の側に行って良いって。
……やっぱり嬉しい。のかも。オレ。
蒼くんの後についてトイレを出て。
少し、ドキドキしながら、打ち上げの会場に、戻った。
281
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる