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◇週末の色々
◇楽屋で*優月
しおりを挟む「Ankh様」と書かれたドアの前で玲央が立ち止まった。
「あのな、優月」
「うん」
「甲斐の親戚が、レコード会社の人なんだけど……ちょっと強烈だから」
「……? うん」
苦笑いの玲央に、全然意味が分からないけど、とりあえず、小さく頷いた。
「まあ大丈夫、害はないはず。ただ少し、オレとお前の事、勇紀が話したから知ってるから」
「……う、ん??」
良く分からないまま頷くと、クスクス笑う玲央に、よしよし、と撫でられて。優しい瞳に、相も変わらず、ドキドキしてると。
玲央がドアを開けて、オレを中に招き入れた。
「わー優月ー!」
勇紀が抱き付きにくる。
「結構早く来れてたよね、良かった」
「うん」
さっきまであんなにカッコよかったのに、完全にいつも通りの勇紀に、ちょっと笑いながら、でもホッとする。
「皆すっごいカッコよかった」
オレを見てる皆に、そう言うと。
「泣いてたろ、ずっと」
「見るたび泣いてるから、つい見ちゃってさ。オレも結構、優月見てたぞ」
颯也と甲斐が苦笑いを浮かべながらそんな風に言う。
あ゛。見られてるし……見えるんだ、結構……。
涙はさすがに見えないだろうから……拭いてる手の動きかな…。
う―恥ずかしい……と、思ってると。
勇紀が、オレの肩をぽんぽんと抱いた。
「しょーがないよねー、この人が、しょっちゅう優月見てるし」
玲央にちらっと視線を流して、勇紀が笑う。
「優月が来た時の玲央の顔、見た?」
勇紀がオレに聞いて、めっちゃケタケタ笑い出す。
「めっちゃ笑顔だったよねー」
「……お前、うるさい。優月、返せ」
ぺり、と肩から勇紀を外して、玲央の方に引き寄せられる。
あはははー、と笑ってる勇紀の隣に、キレイな女の人が2人並んだ。
「――――……ふうん?」
「勇紀、この子?」
聞かれた勇紀がうんうんと頷くと。2人が一歩前に出て、オレの目の前に立った。
「……?」
玲央がさっき、言ってた人かな……?
すごい近くで見られてるんだけど……??
「近すぎ」
玲央が、またオレの腕を掴んで、少し引き寄せた。
ふっと見上げると、玲央が、苦笑いしてる。
「なーにー、玲央、何で今私たちから遠ざけたのかなー?」
「そうよ、ちょっと感じ悪くない?」
「……美奈子さんも里沙さんも、至近距離から見すぎなんで」
玲央の苦笑交じりの言葉に、2人は、顔を見合わせて。
「いいじゃない、見たいし!」
「優月くんて言うんでしょ? こっちおいで」
手を取られて、引っ張られる。
後ろから、玲央のため息が聞こえる。
「ふふ、可愛い、この子。肌、柔らかい~」
「なになに、君は玲央の事、好きなの?」
「え……あ……」
初対面の女の人2人に、いきなりそんな風に聞かれて。
質問を理解した瞬間、顔が熱くなってしまった。
「――――」
「――――」
2人が、きょとん、として。
オレをますますマジマジと見て。かと思ったら、顔を見合わせて。
「やだうそ、ほんとに可愛いんだけど」
「なになに、この子、いくつ?」
「玲央たちと一緒? 嘘でしょー?」
……美人なだけに、なんか迫力がありすぎて、対処しきれない。
「優月が超固まってるから、マジで返して下さい」
再三、玲央に引き寄せられる。
「……もしかして、玲央、本当に本気なの?」
「――――……」
玲央は、口を少し引き結んで。
瞳だけまっすぐに、2人に向けてる。
勇紀達がクスクス笑ってるのが、聞こえる。
「さっきのライブ、見てたでしょ?」
甲斐が笑いながら、2人に話しかけてる。
……あ、そっか。甲斐の親戚、て言ってたっけ。
「StayもLoveもさ、今まででダントツ良かったし。分かるでしょ。……つーか、優月と会ってから、玲央、もう誰だかわかんねえ時あるから」
最後の方は、ふざけた感じで笑いながら、甲斐が言うと。
「まあ確かに。 玲央の歌、今日、ほんと一番良かった~」
「そっか、玲央は好きな子が出来ると、歌、良くなるのね。初めて知った……って、だって玲央が好きな子とかって、今まで居たっけ??」
クスクス笑いながら顔を見合わせてる。
玲央を見上げると、ふー、と息を付いてて。
オレと瞳が合うと、くす、と笑って。
「歌良かった?」
と聞くので。
うんうん、と頷くと。
そっか、と、嬉しそうに笑う玲央が。
……また、可愛いなーと、思ってしまって。
ステージでは、あんなに、カッコ良くて。
……ていうか、いつもいつも、すごくカッコイイのに。
たまに可愛くて。
玲央はよくオレを撫でるけど。
オレも玲央を撫でたいなーなんて。思いながら見上げてると。
「――――……」
くす、と笑った玲央に、ちゅ、とキスされて。
びっくりして固まってると。
案の定騒ぎ出した2人の美人と、呆れて笑ってる皆と。
もう全然対応できなくて、ただ玲央の腕の中に隠されてるまま。
なんかもう、ライブから完全にいっぱいいっぱいで。
もーむり……。
こんなに、周りの会話が入ってこなくなったの、生まれて初めてかも……。
なんて思った。
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