上 下
176 / 825
◇週末の色々

◇楽屋で*優月

しおりを挟む

 
 
「Ankh様」と書かれたドアの前で玲央が立ち止まった。

「あのな、優月」
「うん」

「甲斐の親戚が、レコード会社の人なんだけど……ちょっと強烈だから」
「……? うん」

 苦笑いの玲央に、全然意味が分からないけど、とりあえず、小さく頷いた。


「まあ大丈夫、害はないはず。ただ少し、オレとお前の事、勇紀が話したから知ってるから」
「……う、ん??」

 良く分からないまま頷くと、クスクス笑う玲央に、よしよし、と撫でられて。優しい瞳に、相も変わらず、ドキドキしてると。

 玲央がドアを開けて、オレを中に招き入れた。


「わー優月ー!」

 勇紀が抱き付きにくる。

「結構早く来れてたよね、良かった」
「うん」

 さっきまであんなにカッコよかったのに、完全にいつも通りの勇紀に、ちょっと笑いながら、でもホッとする。

「皆すっごいカッコよかった」

 オレを見てる皆に、そう言うと。

「泣いてたろ、ずっと」
「見るたび泣いてるから、つい見ちゃってさ。オレも結構、優月見てたぞ」

 颯也と甲斐が苦笑いを浮かべながらそんな風に言う。

 あ゛。見られてるし……見えるんだ、結構……。
 涙はさすがに見えないだろうから……拭いてる手の動きかな…。

 う―恥ずかしい……と、思ってると。
 勇紀が、オレの肩をぽんぽんと抱いた。

「しょーがないよねー、この人が、しょっちゅう優月見てるし」

 玲央にちらっと視線を流して、勇紀が笑う。

「優月が来た時の玲央の顔、見た?」

 勇紀がオレに聞いて、めっちゃケタケタ笑い出す。

「めっちゃ笑顔だったよねー」
「……お前、うるさい。優月、返せ」

 ぺり、と肩から勇紀を外して、玲央の方に引き寄せられる。
 
 あはははー、と笑ってる勇紀の隣に、キレイな女の人が2人並んだ。

「――――……ふうん?」
「勇紀、この子?」

 聞かれた勇紀がうんうんと頷くと。2人が一歩前に出て、オレの目の前に立った。

「……?」

 玲央がさっき、言ってた人かな……?
 すごい近くで見られてるんだけど……??


「近すぎ」

 玲央が、またオレの腕を掴んで、少し引き寄せた。
 ふっと見上げると、玲央が、苦笑いしてる。


「なーにー、玲央、何で今私たちから遠ざけたのかなー?」
「そうよ、ちょっと感じ悪くない?」

「……美奈子さんも里沙さんも、至近距離から見すぎなんで」

 玲央の苦笑交じりの言葉に、2人は、顔を見合わせて。

「いいじゃない、見たいし!」
「優月くんて言うんでしょ? こっちおいで」

 手を取られて、引っ張られる。
 後ろから、玲央のため息が聞こえる。

「ふふ、可愛い、この子。肌、柔らかい~」
「なになに、君は玲央の事、好きなの?」

「え……あ……」

 初対面の女の人2人に、いきなりそんな風に聞かれて。
 質問を理解した瞬間、顔が熱くなってしまった。

「――――」
「――――」

 2人が、きょとん、として。
 オレをますますマジマジと見て。かと思ったら、顔を見合わせて。


「やだうそ、ほんとに可愛いんだけど」
「なになに、この子、いくつ?」
「玲央たちと一緒? 嘘でしょー?」

 ……美人なだけに、なんか迫力がありすぎて、対処しきれない。

「優月が超固まってるから、マジで返して下さい」

 再三、玲央に引き寄せられる。


「……もしかして、玲央、本当に本気なの?」

「――――……」

 玲央は、口を少し引き結んで。
 瞳だけまっすぐに、2人に向けてる。

 勇紀達がクスクス笑ってるのが、聞こえる。

「さっきのライブ、見てたでしょ?」

 甲斐が笑いながら、2人に話しかけてる。
 ……あ、そっか。甲斐の親戚、て言ってたっけ。

「StayもLoveもさ、今まででダントツ良かったし。分かるでしょ。……つーか、優月と会ってから、玲央、もう誰だかわかんねえ時あるから」

 最後の方は、ふざけた感じで笑いながら、甲斐が言うと。

「まあ確かに。 玲央の歌、今日、ほんと一番良かった~」
「そっか、玲央は好きな子が出来ると、歌、良くなるのね。初めて知った……って、だって玲央が好きな子とかって、今まで居たっけ??」


 クスクス笑いながら顔を見合わせてる。


 玲央を見上げると、ふー、と息を付いてて。
 オレと瞳が合うと、くす、と笑って。


「歌良かった?」
 と聞くので。


 うんうん、と頷くと。
 そっか、と、嬉しそうに笑う玲央が。

 ……また、可愛いなーと、思ってしまって。
 


 ステージでは、あんなに、カッコ良くて。
 ……ていうか、いつもいつも、すごくカッコイイのに。

 たまに可愛くて。

 玲央はよくオレを撫でるけど。
 オレも玲央を撫でたいなーなんて。思いながら見上げてると。



「――――……」


 くす、と笑った玲央に、ちゅ、とキスされて。

 びっくりして固まってると。


 案の定騒ぎ出した2人の美人と、呆れて笑ってる皆と。

 もう全然対応できなくて、ただ玲央の腕の中に隠されてるまま。

 なんかもう、ライブから完全にいっぱいいっぱいで。
 もーむり……。


 こんなに、周りの会話が入ってこなくなったの、生まれて初めてかも……。
 なんて思った。






  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

処理中です...