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◇週末の色々

◇大事な人*優月

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 もう何回目かの手伝いだし。
 今日もすでに何時間も経ってるし。

 でもそれでも、どうしても貫禄がある人の相手はちょっと緊張する。
 笑顔を心がけてはいるけれど、自然に見えてるか、心配。

 すごいお金持ちの雰囲気のある人だと、怒らせちゃって蒼くんに迷惑かけたら大変、と思うと、余計にドキドキしながら、受付の対応をこなす。普通より、すごく気を使って、そういう点ですごく疲れる。


 18時を回った。
 大分昼間よりは減ったけれど、まだ結構続けて人が来るので、離れられない。

 一組の案内を済ませて、中に送り出して、また新しく入ってきた人に向かい合おうとした瞬間。


「お疲れ様、優月」

 顔を見るより先に、声が聞こえた。
 聞きなれた優しい声。誰かはすぐ分かる。


「久先生」

 ほっとする。
 ――――……先生も、偉い先生で、ほんとはオレが「おじいちゃんみたい」なんて言って良い相手じゃないんだけど。

 長年の付き合いで、それが許されていて。
 先生も、オレを孫みたいなもの、と言ってくれてるし。
 可愛がってくれてるのを知ってるので、それに甘えてしまっている。


「遅かったんですね」
「今日は別の集まりがあってね……友人を連れて少し寄ったんだよ」

 久先生と並んで、すごくオシャレな感じの男性が、オレに向き直った。

「初めまして。久の孫、らしいね?」
「え、あ……」

 久先生を見ると、ふ、と笑ってるので。ふふ、と笑って、「はい。小さい頃から可愛がってもらってます」と、頷いた。

「優月も絵を描くんだけどね。優しい絵を描く子なんだよ」

 久先生が、オレの絵を表す時にいつも出てくる言葉。
 技術とかはあとまわしで、ぱっと見の印象をその言葉で表す。

 優しい絵。ホッとする絵。大事な部屋に飾りたくなる。
 先生が、そんな風にほめてくれるから――――……余計絵を、続けたのかも。

「久がそんな風に褒めるとか。作品、見てみたいな」
「うちの離れの教室に飾ってあるよ。今度うちに来た時に見ればいい。ね、優月。 この子は火曜日に絵を描きに来てるから」

 あ、自宅にも来る位、仲良しな人なんだ。
 いいなあ、おじいちゃんになっても、こんなに仲良しそうなお友達が居るって。オレと美咲と智也も、そうなってると良いなあ……。

 少しの間、久先生とお友達の男性と、話していたら、


「あ、父さん。いらっしゃい。希生きおさんもいらっしゃいませ」

 蒼くんが、久先生を見つけて、やってきた。あ、蒼くんも知ってる人なんだ……。

 ちょうどその時、また別の人が来たので、沙也さんの隣に戻って、受付を済ませる。その後、何人かの対応をすませた所で、中を一緒に回っていた蒼くん達が、戻ってきた。


「優月、そろそろ良いぞ、行って」

 時計を見ると、18時半。

「何か用事なの?」
「それがさ、父さん。優月、好きな奴のライブに行きたいんだって」

 あわわ。
 こんなとこで、相手、男とか、言わないでね、とちょっと焦ったけど。
 意外?にも、蒼くんはそれだけで止まってくれた。

「へえ。好きな人の事は、あんまり聞いた事なかったね。居るんだね、優月にも大事な人が」

 久先生がそんな風に言って、オレに笑いかけた。

 ――――……大事な人。

 玲央の事、大事な人、と表現したことは、今まで無くて。
 大好き、とか、は何回もあるけど。

 「大事な人」という言葉に、オレは、何だかすごく嬉しくなって。
 何だか言葉が出なくて、ゆっくり、頷いた。
 多分、めちゃくちゃ笑顔で。

 そしたら、久先生は、おやおや、と言った顔で笑って。


「相当大事な人みたいだね」

 クスクス笑われて、「あ」と思わず緩んだ口元を隠す。
 久先生のお友達まで「若いっていいね」なんて言って久先生と笑ってる。

 蒼くんは、「お前なんて顔して笑ってんの。緩みすぎ」なんて、髪をクシャクシャにしてくるので、「やめてよ」と髪を整える。

 もう。
 やっぱり、蒼くんは、絶対こっちが、蒼くんだし。

「良いよ、優月。もう出て。オレ、ここ片付けたら即そっち行くから」
「……蒼も行くのか??」

 久先生が不思議そうに蒼くんに聞いた。

「そ。ライブの打ち上げとか出た事ないから不安なんだって。見守り隊」
「そんな事言って、優月の相手が気になるだけじゃないのか?」
「はは、分かる?」
「ほんと蒼は……。 優月の邪魔をするんじゃないよ」
「しないよ。……相手が良い奴なら」

 ……なんか、その返答は気になる。
 隣に立ってる蒼くんをじっと見上げると。蒼くんは、クスクス笑った。


「せっかくおいでって言ってくれたから、少しだけ顔出して……でも、すぐ帰るから。ごめんね、蒼くん、そんなちょっとの為に来てもらって」
「全然大丈夫。楽しみにしてるから。あと、そこ出たらどっかで飯食って帰ろ」
「ん」
 楽しみにしてるっていう所が、何か少し引っかかるけど。


「沙也さん、オレこれで行きますね。また明日よろしくお願いします」
「はーい、優月くん、また明日。お疲れ様ー」

「じゃ蒼くん、ライブ終わったら、外出て電話待ってるね」
「ん。ライブはジャケット脱いで、ネクタイもゆるめときな」
「あ、うん。ありがと」

 頷いてから、久先生とお友達に向き合う。

「じゃあ先生、オレ、行きますね」
「優月、ライブハウスなんて、行った事あるの?」
「無いです。すごいドキドキで……。 踏みつぶされないように頑張ります」

 言うと、2人に、クスクス笑われる。
 ……オレ的には、ちょっと本気なんだけど。

「気を付けてね」
「またどこかでね、優月くん」

「はい」

 会釈して、そこを後にした。

 少し遅れるけど――――……思ってたよりずっと早く着けそう。
 電車に乗って、渋谷に向かう。

 ちょうど19時。
 今、始まった。


 玲央って、緊張したり、すんのかな。

 ――――……しなそう。
 見られること、何とも思わなそう。

 ――――……絶対絶対、カッコいいだろうなあ。

 ふ、と微笑みそうになって、唇を軽く噛む。

 スマホでライブハウスの住所を検索して、行き方を確認。
 改札を出て、まっすぐに、その場所に、向かった。








◇ ◇ ◇ ◇


お話を気に入って頂けてたら。
よろしければ 気が向いた時にでも、
感想など聞かせてやってくださいませね(*´ω`)♡



◆ちょっと宣伝させてくださ~い♡◆
よろしければ、ぜひ♡


◆少し前に書き始めて、なんか最近書くのが楽しくなってきたお話です♡

 社会人 後輩×先輩

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