172 / 825
◇週末の色々
◇大事な人*優月
しおりを挟むもう何回目かの手伝いだし。
今日もすでに何時間も経ってるし。
でもそれでも、どうしても貫禄がある人の相手はちょっと緊張する。
笑顔を心がけてはいるけれど、自然に見えてるか、心配。
すごいお金持ちの雰囲気のある人だと、怒らせちゃって蒼くんに迷惑かけたら大変、と思うと、余計にドキドキしながら、受付の対応をこなす。普通より、すごく気を使って、そういう点ですごく疲れる。
18時を回った。
大分昼間よりは減ったけれど、まだ結構続けて人が来るので、離れられない。
一組の案内を済ませて、中に送り出して、また新しく入ってきた人に向かい合おうとした瞬間。
「お疲れ様、優月」
顔を見るより先に、声が聞こえた。
聞きなれた優しい声。誰かはすぐ分かる。
「久先生」
ほっとする。
――――……先生も、偉い先生で、ほんとはオレが「おじいちゃんみたい」なんて言って良い相手じゃないんだけど。
長年の付き合いで、それが許されていて。
先生も、オレを孫みたいなもの、と言ってくれてるし。
可愛がってくれてるのを知ってるので、それに甘えてしまっている。
「遅かったんですね」
「今日は別の集まりがあってね……友人を連れて少し寄ったんだよ」
久先生と並んで、すごくオシャレな感じの男性が、オレに向き直った。
「初めまして。久の孫、らしいね?」
「え、あ……」
久先生を見ると、ふ、と笑ってるので。ふふ、と笑って、「はい。小さい頃から可愛がってもらってます」と、頷いた。
「優月も絵を描くんだけどね。優しい絵を描く子なんだよ」
久先生が、オレの絵を表す時にいつも出てくる言葉。
技術とかはあとまわしで、ぱっと見の印象をその言葉で表す。
優しい絵。ホッとする絵。大事な部屋に飾りたくなる。
先生が、そんな風にほめてくれるから――――……余計絵を、続けたのかも。
「久がそんな風に褒めるとか。作品、見てみたいな」
「うちの離れの教室に飾ってあるよ。今度うちに来た時に見ればいい。ね、優月。 この子は火曜日に絵を描きに来てるから」
あ、自宅にも来る位、仲良しな人なんだ。
いいなあ、おじいちゃんになっても、こんなに仲良しそうなお友達が居るって。オレと美咲と智也も、そうなってると良いなあ……。
少しの間、久先生とお友達の男性と、話していたら、
「あ、父さん。いらっしゃい。希生さんもいらっしゃいませ」
蒼くんが、久先生を見つけて、やってきた。あ、蒼くんも知ってる人なんだ……。
ちょうどその時、また別の人が来たので、沙也さんの隣に戻って、受付を済ませる。その後、何人かの対応をすませた所で、中を一緒に回っていた蒼くん達が、戻ってきた。
「優月、そろそろ良いぞ、行って」
時計を見ると、18時半。
「何か用事なの?」
「それがさ、父さん。優月、好きな奴のライブに行きたいんだって」
あわわ。
こんなとこで、相手、男とか、言わないでね、とちょっと焦ったけど。
意外?にも、蒼くんはそれだけで止まってくれた。
「へえ。好きな人の事は、あんまり聞いた事なかったね。居るんだね、優月にも大事な人が」
久先生がそんな風に言って、オレに笑いかけた。
――――……大事な人。
玲央の事、大事な人、と表現したことは、今まで無くて。
大好き、とか、は何回もあるけど。
「大事な人」という言葉に、オレは、何だかすごく嬉しくなって。
何だか言葉が出なくて、ゆっくり、頷いた。
多分、めちゃくちゃ笑顔で。
そしたら、久先生は、おやおや、と言った顔で笑って。
「相当大事な人みたいだね」
クスクス笑われて、「あ」と思わず緩んだ口元を隠す。
久先生のお友達まで「若いっていいね」なんて言って久先生と笑ってる。
蒼くんは、「お前なんて顔して笑ってんの。緩みすぎ」なんて、髪をクシャクシャにしてくるので、「やめてよ」と髪を整える。
もう。
やっぱり、蒼くんは、絶対こっちが、蒼くんだし。
「良いよ、優月。もう出て。オレ、ここ片付けたら即そっち行くから」
「……蒼も行くのか??」
久先生が不思議そうに蒼くんに聞いた。
「そ。ライブの打ち上げとか出た事ないから不安なんだって。見守り隊」
「そんな事言って、優月の相手が気になるだけじゃないのか?」
「はは、分かる?」
「ほんと蒼は……。 優月の邪魔をするんじゃないよ」
「しないよ。……相手が良い奴なら」
……なんか、その返答は気になる。
隣に立ってる蒼くんをじっと見上げると。蒼くんは、クスクス笑った。
「せっかくおいでって言ってくれたから、少しだけ顔出して……でも、すぐ帰るから。ごめんね、蒼くん、そんなちょっとの為に来てもらって」
「全然大丈夫。楽しみにしてるから。あと、そこ出たらどっかで飯食って帰ろ」
「ん」
楽しみにしてるっていう所が、何か少し引っかかるけど。
「沙也さん、オレこれで行きますね。また明日よろしくお願いします」
「はーい、優月くん、また明日。お疲れ様ー」
「じゃ蒼くん、ライブ終わったら、外出て電話待ってるね」
「ん。ライブはジャケット脱いで、ネクタイもゆるめときな」
「あ、うん。ありがと」
頷いてから、久先生とお友達に向き合う。
「じゃあ先生、オレ、行きますね」
「優月、ライブハウスなんて、行った事あるの?」
「無いです。すごいドキドキで……。 踏みつぶされないように頑張ります」
言うと、2人に、クスクス笑われる。
……オレ的には、ちょっと本気なんだけど。
「気を付けてね」
「またどこかでね、優月くん」
「はい」
会釈して、そこを後にした。
少し遅れるけど――――……思ってたよりずっと早く着けそう。
電車に乗って、渋谷に向かう。
ちょうど19時。
今、始まった。
玲央って、緊張したり、すんのかな。
――――……しなそう。
見られること、何とも思わなそう。
――――……絶対絶対、カッコいいだろうなあ。
ふ、と微笑みそうになって、唇を軽く噛む。
スマホでライブハウスの住所を検索して、行き方を確認。
改札を出て、まっすぐに、その場所に、向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
お話を気に入って頂けてたら。
よろしければ 気が向いた時にでも、
感想など聞かせてやってくださいませね(*´ω`)♡
◆ちょっと宣伝させてくださ~い♡◆
よろしければ、ぜひ♡
◆少し前に書き始めて、なんか最近書くのが楽しくなってきたお話です♡
社会人 後輩×先輩
「愛じゃねえの?」のプロローグに飛びます↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/551897599/496520200/episode/4502158
◆もいっこ。
こちらは新入社員同期二人が、段々お互い好きになっていく所を今楽しく書いております♡
「fairytail」の一目惚れシーンに飛びます↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/551897599/444511205/episode/4434352
◆さらにもいっこ♡
義理の弟×兄 超もどかしいと思いますが。切ないもどかしいに浸りたいときぜひ~♡
「Staywithme」のプロローグに飛びます↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/551897599/491508901/episode/4413943
277
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる